太腿が覗く程に短い黒ドレスにワインレッドのハンドバック。黒髪は巻いて、唇に真っ赤なルージュ。踵の高いピンヒールが普段より視界を高くしてくれる。睫毛に塗られたマスカラが重力に逆らって上を向く。薄く引いたアイシャドウがシャンデリアの光に照らされていた。ダンスホールを進んでいく黒ずくめの集団は存在だけで周囲を威圧し、畏怖させる。






パーティー会場には沢山のマフィア達が集まっていた。世界各地の同盟ファミリーを招いてのボンゴレ主催、親睦会が行われているのだ。そんな場所に何故ヴァリアーが招かれているのか怪訝な顔ばかりが私たちを見つめている。無理もない。当事者の私たちでさえ納得の上での参加ではないのだから。

七年前、無期限謹慎処分を科せられ数年前にようやく活動を再開したイタリア最強の独立暗殺部隊。公の場に姿を現すことを許されず存在を否定され続けていたヴァリアー。そんな私たちが招かれた理由はお察しの通り、九代目の近辺警護を兼ねての招待だった。会場内で不審者を見つけるという割りかし簡単な任務である。
今日のパーティーは世界各地から有数のファミリーが集っている。それに興じてネズミが紛れ込んでいる可能性は拭えない。従って、ボスであるXANXUS不在の為スクアーロがその代理を務め、私とベルとマーモンが補佐としてパーティーに招かれたのだった。


「うししっ、ジャッポーネ風に言うと馬子にも衣装ってやつ?」

「それ褒め言葉じゃないからね。私だってもっと淡い色着たかったよ、何この原色にまみれた様子は」

「君には黒が似合うんだよ」

「名前がオレンジとかピンクとか王子考えらんねーし」

「失礼な」

煌びやかな会場に浮かぶ全身黒コーデの三人組。名前の隣にはいつもと違うティアラをしたベルが黒スーツを身に纏って立っていた。やはり王子ともあってか普段にはない気品がある。口さえ閉じてれば十分素敵な男性。あとはナイフが薔薇だったら完璧だ。
そんなベルの腕にはマーモンが抱っこされている。彼も隊服のフードではなく特注であろうそれを上品に着こなしていた。か、かわいい。


「つーか、いつまで居ればいいんだよ」

「スクアーロが帰って来たら今後の予定を立てるから、もう少しかな」

「思うんだけど九代目に挨拶に行くなら名前の方が良かったんじゃないのかい?」

「ししっ、確かに。ボスの敵討ちしかねないぜ?」

「ベル、その話はしちゃ駄目。でも私が行けばアンタ達間違いなく此処で殺し合い始めるでしょ」

「まあ否定は出来ねーけど」


この親睦会は立食パーティーで私たちはデザートをそれぞれ選んで取り皿に移し、部屋の隅に置いてある椅子で食べることにした。
腰を下ろした矢先、突き刺さる冷たい目線。危険視と言う名の非難の目、周囲の目線は黒ずくめの私たちに冷眼を浴びせていく。息が詰まるようなこの感覚は勘違いではないはずだ。中には好奇の目、といよりベル目当ての女の目線が突き刺さる。


「スクアーロなら当分帰って来なさそうだし行ってきたら?」

「ん?…あー、王子雌豚は相手にしねーから」

「雌豚って…美人さんばっかじゃない」

「化粧でツラの厚い雌豚だろ」

「じゃあこの前のは?ケバい美人さんと付き合ってたじゃん」

「ん、そうだっけ?どーしたんだっけな、王子覚えてない」

「ベルの将来が心配だよ」

「心配御無用ー王子は王子でちゃんとやってくから」

うししっとお決まりの笑みを零したベルは私の頭をくしゃくしゃと撫でた。これは彼なりの「心配してくれて、ありがと」の意なのである。もうかわいいなぁ。






上品な見た目のティラミスにフォークを刺し、一口大にして口に運ぶ。ベルはロールケーキを手で掴みそのまま口に運んでいる。ペロリと指についた生クリームを舐めると「イマイチ」と眉根を寄せた。マーモンは色とりどりのマカロンを頬張って「金にならないなら早く帰りたいんだけど」と零した。相変わらず守銭奴である。


それにしても日頃から恐れられているヴァリアーの幹部たちがこんな風にデザートを頬張りながら会場を眺めているなんて、周囲からしたらとんだお笑い草だろうに。
口の中のスポンジ生地に舌鼓を打っていると、ふいに私の前に影が落ちる。ちなみにセルパイオではない。

顔を上げれば、そこには見知らぬ男が居た。


20110717 杏里





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