「何ですって?」

名前の形のいい眉が釣り上がったのが分かった。これは不味い、とシリウスが顔を引き攣らせたのはその三秒後。「あ、いや大丈夫だ、ちゃんと上着も着せてやってたし」と弁解を始めた彼は膝に乗せている愛娘の脇下に手を入れて軽く持ち上げる。

「あら、それで前回風邪をこじらせてニーナに移したのは誰だったのかしら?」

受け取った名前は愛娘の顔を覗き込んだ後、額と額をくっつけて異変を感じ取ろうとした。これは古くからマグルが行う、魔法を使わない体調変化を調べる方法だと彼女が口にしていたのを思い出した。
しかし特にこれといって変化はないらしい。安堵したように息を吐いた名前はニーナを寝かしつけるために立ち上がる。
それについてリビングから出て行くシリウスは学生時代の時から余り変わっていない。相変わらずの艶々な黒髪に、涼しげな薄灰色の瞳。スッとした鼻筋はどうやら娘のニーナに受け継がれたらしい。シリウスに似ていた。髪の色は二人とも黒髪だったし、目の色は名前と同じで綺麗なブラウンだった。



ニーナは確実にシリウスと名前の娘だった。生まれて数週間後にオモチャのアヒルをブタの貯金箱に変えたと聞いたときは笑いが堪えられなかった。
何故なら私たちがまだ学生の頃、マクゴナガルの授業を初めて受けた名前が緊張でオモチャのアヒルを目覚ましに変えるどころかブタの貯金箱に変えてしまい生徒の爆笑を誘ったのは随分と長い間、笑いの種になっていた。ちなみにその話をすると名前は顔を真っ赤にさせて怒るのでシリウスと彼女の前でその話をするのは封印した。

ようやく立ち上がれるようになったニーナは父親の素質を受け継いでいることを証明する。離乳食片手に子供部屋に入った名前は大慌てだったらしい。シリウスがハリーの一歳の誕生日のプレゼントで買った小さな箒と色違いのそれに跨り、飛び回っていたのだ。







名前が帰宅すると留守をしていたはずのシリウスと愛娘のニーナが姿を消していた。途中で二人の家に向かっていた私と合流した名前は何かあったのではと顔を青くさせていた。
しかしその数秒後庭先の方から、けたたましいエンジン音が響いてきた。家に帰ってきたシリウスの腕には外の寒さで頬を赤くさせながらも嬉しそうに笑うニーナ。もう片方の腕にはバイクのヘルメット。
瞬時に状況を理解した名前はわざとらしくシリウスに今まで何処で何をしていたかを語らせた。

そして話は冒頭に戻る。


「まったく信じられないわ!この寒空の下でバイクで夜空の散歩ですって?」

階段を降りてきた名前は憤慨した様子で腕組みをしている。シリウスはバツが悪そうに後ろから付いてきていた。これがあのホグワーツで最もモテていた男の成れの果てである。

「ニーナがどうしてもって言っうから連れて行ってやったんだ。久しぶりの休暇だったし、中々遊んでやれなかったから」

「嘘おっしゃい、まだ言葉もロクに喋れないニーナがどうやってバイクに乗りたいなんて言うのよ。とんだ不良少女になってしまうわ」

リビングまで降りてきた名前は僕を見て「ごめんなさいリーマス、今ホットココアとブラウニーを出すわ」とキッチンへ消えていった。それを見届けていたシリウスは悪戯っぽく笑って私の元へ長い脚で駆け寄ってきた。



「聞いてくれよリーマス」

彼がこう言った顔をする時はスネイプに悪戯をしてやったりの時か名前の惚気をするときである。

「ああ言ってる名前の顔とニーナが拗ねた顔ってそっくりなんだ。その顔で言われたら、俺が断れるわけがないよな?」

「ああ、確かにそうだよシリウス」

「だろう?流石ムーニー」

「君には適わないさ、パッドフッド」

いつまでも変わらない君たちを見ている私は何だかとても温かい気持ちになるよ、そう告げればシリウスは白い歯を見せて笑った。

そんな彼の隣に甘い香りを漂わせたホットココアとブラウニーを持ち寄った名前が現れる。ソファーに腰掛けた僕たちは談話室で過ごした日々を再現するかのように語り明かしたのだった。



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柚子さんへ
遅れて大変申し訳ありませんでした!!シリウス夫婦と娘の話と言うことで私的に大好きなシリウスのバイクを捏造してやりました。彼なら真夜中に娘を連れて散歩に行きかねないと思います。しかもまだ言葉を喋らない娘でも…そんなシリウスもかわいい。


20111029 杏里





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