バダップ・スリードを知っているか、と聞かれれば、ある者は顔を青くし、ある者は赤くするだろう。ましてや、バダップを知らない者など居ないはずだ。
冷静沈着、頭脳明晰、そして圧倒的な力で敵を排除する力。
王牙のトップに君臨するバダップは常日頃からあまり感情を表に出さず、無表情で居る事が多い。そして命令に背く者は容赦なく切り捨てるという一面を持つ、まさに軍人の鏡のような人物だ。
そんな彼だからこそ、容姿端麗なのも手伝い女子生徒、教官達からの支持や信頼も厚い。

しかしながら、バダップには俺とミストレにしか見せない一面を持っている。それも、今までのバダップのイメージを打ち砕くもので。本人は俺たちだけにしか見せないことに気付いていないのが現状だった。


「エスカバ、ミストレ、相談があるんだが」

昼食をとる時間になると必ずと言っていいほどバダップはこの言葉を口にする。最初は興味津々だったミストレも今となってはげんなりしているのを隠せていない。かく言う俺もそうだった。



「どうして名前はあんなに可愛らしいのだろうか」

あのバダップが、だ。あの鉄面皮で常に無表情のバダップが、そのままの表情で口にする言葉は普段の彼を知る俺たちからすれば末恐ろしいものだった。
話題に上がった名前、とはバダップが密かに片思いしていて、つい最近出来た初めての恋人である。
苗字名前。王牙学園で知らぬ者はいない問題児である。バダップとは正反対の性格、温厚で謙虚、しかし教官であっても気に食わないことがあればすぐに噛みつく難癖を持っている。しかし高い知能と戦闘能力を買われているために何の処分も受けない変わった人物だ。

バダップはいつも彼女の話をする。俺とミストレだけの時は決まって、だ。

「昨日の夜、名前からメールがあって一緒に登校しないかと誘われたんだが、そのメールが可愛すぎるんだ」

少し頬を高揚させながら語るバダップはパタパタと携帯を開いたり閉じたりしている。そしてちらちらと此方を見るのだ。
仕方なく棒読みで「へー、どんなのだよ」と言さってやるとバダップは嬉しそうに携帯を操作していく。そして差し出された画面には勿論名前の名前、そして本文には『明日、一緒に登校しない?がおー』と書かれていた。

「俺が死ぬことがあるとすればそれは名前に…」

「あーはいはい、分かったからまず昼飯食えよ」

頼んだカレーライスに手も付けずに語り始めるバダップを止めてやれば、つまらなさそうに携帯を仕舞った。今みたいにストップをかけなければ昼休みは無くなっていただろう。
大人しくスプーンを握ったバダップを見て溜息をつけばミストレが「一安心するのはまだ早いぞ」と俺を小突いた。「は?」と振り返った俺の目線の先には見慣れた姿。

「バダップー」

苗字だった。
同時にバダップが有り得ないくらい動揺し始めた。あああもう止めてくれ。

「どうした、名前」

「いや、バダップ見えたから声かけたんだけど…ダメだった?」

「!」

苗字はバダップのツボを突くのが上手い。なんだこのバカップルは。案の定赤くなってニヤケた顔を必死こいて隠そうとするバカップル…バダップは手元にあったカレーを素早く片付けると苗字の手を引いて何処かへ消えていった。


「あ゙ーっ、俺も彼女欲しい」

「精々頑張れよ、童貞くん」

「黙れミストレ」

なんだかんだ言ったってあの二人みたいな関係になれたらな、なんて憧れる俺は一体。




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リクエスト頂きました秋刀魚さんありがとうございました!ご希望に添えたか心配でたまりませんが、お気に召していただければ幸いです!それでは!
20110702 杏里





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