きっとこの世界には沢山の糸が張り巡らせてあるのだろう。人は他人と関わることでその糸を絡ませ関係を創造してゆく。


無数に伸びる糸は容易く断ち切る事は出来ない。その力は闇の力をも破り、友情を、愛を産み落とす。



しかし離れていく心は糸を腐敗させ、結び目を解いていく。安定を失った肉体は闇に引きずり込まれ、自我を失い仲間を襲うだろう。




仲間と愛する者と共にあれ、幾重にも折り重なった煌めく糸に闇は触れることすら出来ない。だが闇の勢力は僅かな隙間から蛇のように鋭い毒牙を覗かせて此方を伺っている。



忘れてはならない、強い結束を。



















絹のように滑らかな黒髪を、睫毛を震わせ珠のような雫が弾ける。陶磁器のような肌を透明な雫が濡らして陰影は更に深まる。受け止めきれぬ真実は時に心の臓を握り潰し、暗闇に身を投じさせた。
それはいとも簡単に結び目を綻ばせ、繋がりを腐敗させる。裸足で闇夜を進む彼女は自分が暗闇に浸っていることにも気付かない。




汚れなき光が闇夜を貫き、彼女は暗闇から息を吹き返した。纏わりついた黒糸は焼き払らわれ新たな糸が掬い上げる。
しかし安息など訪れる訳もなく、感じ取ることの出来ない恐怖に身体を震わせる日々は続いた。

























しかし、暗黒の時代は呆気なく終わりを告げる。


闇の帝王はほんの赤ん坊の、ハリー・ポッターを殺し損ね失脚したのだ。稀代の英雄となるであろう彼の額に一筋の稲妻の傷を残して。
静かな夜、瓦礫の中で何も知らない赤ん坊がすやすやと眠っている。抱き抱えると小さく笑い、蕾のように小さい掌を握り返してくれた。


目は、リリーにそっくりで、きっとジェームズ似になるんだろうね、そう語ったのはたった数日前だった。見慣れていた筈の燃えるような赤毛の女性が、その緑色の瞳を見開いて息絶えている。
目を覚まして、そしてハリーをあやしてあげて。泣きそうになるくらい優しいあの表情でまた笑いかけて欲しかった。






少し向こうで黒髪の男が叫んでいる。
既に息を引き取った唯一無二の親友を抱えて。すぐ傍で鳶色の髪の男が珍しく感情を露わにして泣いていた。
彼にもあんな一面があったんだと、ぼんやりと思いながら腕の中の赤ん坊を見つめる。










「ハリー、ごめんね」



守れなかった。
君の大好きなお父さんとお母さんを。
素晴らしい人たちを。
私は君の未来を守れなかった。










多くの糸を引き裂いて全てを恐怖のどん底に突き落とした男は姿を消した。

あまりにも痛い、悲しみを残して。

今夜世界各地の魔法族は歓喜するだろう。尊い犠牲の上でそれさえも忘れてしまうほどに。
案の定、誰が打ち上げたのか何年ぶりかの明るい夜空に季節外れの流星群が降り注ぐ。
涙で霞む視界に、それをやけに眩しく感じながら私は呆然と眺めていた。






そして、舞台は過去に遡る。






-----------

はじまりました。



20101002








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -