(5/26)源佐久



思う言葉は山ほどある。心中で渦巻く感情は、決して穏やかでない。言わないと伝わらないのは分かり切っている。おまけにポーカーフェイスと言われる、能面な顔には何一つ感情が浮かばない。こういう時ばかりは厄介だ。とても。
(分かってるさ…)
声にならないおどろおどろとしたこの黒い感情の正体と、原因は直ぐ目の前の男に関係する。唇が震える。一言さえ声になれば、この微妙な距離が息苦しくなくなるのだろう。けれど、口から出るものは僅かな吐息だけだ。声にならない。声に、ただ、吐息と一緒に音を吐き出すだけなのに。
「佐久間、言わないと伝わらないぞ」
分かってる、分かり切っていることをお前が言うな。普段の八つ当たりよりも怒りが全面に出てしまいそうだ。こうなった原因はお前にあるというのに、ああ、思い出したら腹が立ってきた。
深呼吸。深く、ふかく、息を肺へと吸い込む。こっそりと。奴に気付かれると厄介だからだし。はあ。嘆息すると、少し息苦しさが緩和されたような気がする。はあ。もう一回。
顔に乗せるもののは、俺なりの精一杯だ。微妙な緊張感とともに、声を唇に乗せていく。
「おめでとう、源田。ようやく童貞捨てられるじゃねえか」
吐き捨てたのは普段の暴言、とささやかな祝福。困惑気味な表情からゆるやかな笑顔に一変して、胸がちくりと痛んだ。ああ、くっそ痛えよ、馬鹿源田。


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