(5/30)豪風



※少年サッカー協会会長と同居人の話。





自分が大人になったとつくづく実感するのは、仕事明けの疲労感に包まれている時だろうか。
達成感の心地良さはなく、時間を忘れて取り組んだ結果、ようやく終われたのが日の出の時間になってしまった後悔と疲労感にどっぷり浸かる感覚が近い。
自分がスポーツマンだった頃、仲間達に睡眠時間の大切さを語っていたとは考えられない体たらくだ。
仕事の区切りがついたと同時に、ソファーに倒れこむように横になる。久しぶりの睡眠を求めて目を瞑ると、身体が布地に沈む感覚はあるが、目が冴えて眠りに落ちる感覚が得られない。
それもそうか。数日間徹夜を続けたのだから、そうやすやすと身体が睡眠モードに入ってくれないのだ。
何か飲み物でも飲んで、一休みをするか。重い身体を起こして、朝日が差し込むリビングへ向かった。


「ひと段落したのか?仕事」
普段であればしんと静まり返るリビングに、爽やかな声が響いた。
ダイニングテーブルでマグカップに手を添えた風丸が、おはようかな?と首を傾げている。
理解が追い付くまで、しばらくの時間を要した。
「どうして、こんな時間まで起きている」
本来であれば、現役スポーツマンである風丸は寝ている頃であり、こんな時間に起きているわけがない。ーーしばらく仕事に追われて顔を合わせない日が続いていたけれど、ちょっとやそっとのことで生活リズムが変わる男ではないのだ。
質問に質問で返しても、長年生活を共にしている男は嫌な顔せず、また悪びれず、たまたま目が覚めたんだよと苦笑した。
「だからおはようって言ってるだろ?こっちはさっき起きた。そしてお前は仕事がひと段落した。お疲れさん」
久しぶりの恋人との会話が、説教じみたものになってしまったが、風丸は状況整理した上に労いの言葉を掛け、自分の隣の席を勧めた。
誘われるがまま腰を落とすと、目の前にマグカップが置かれる。中を覗き込むと、仕事の合間に飲んでいたコーヒーでもなく、風丸が好きで飲んでいるココアでもなく、真っ白な温かいドリンクだった。
口を付けてみると、優しいミルクの味が口いっぱいに広がった。
風丸はこうやって、余計な言葉を交わすことなく理解してくれるところがある。
仕事のために会話する事なく放り出しても、嫌な顔せず過ごしてくれる。久々に顔を合わせれば労ってくれる。たまにの会話が説教でも、思いやってくれるのだ。
眠れない煩わしさがホットミルクの優しい味でやさしく和らいでいく。


「昨夜カーテンを雑に閉めたせいか、朝日が眩しくて目が覚めてさ。どうせだからどこかひとっ走りでも行こうかと思って……あ、寝たか」
隣でうつ伏せの豪炎寺からすやすやと寝息が聞こえて、会話をやめた。代わりにソファーに置いていた毛布を肩に掛けてやる。
豪炎寺に渡したマグカップを覗くと、半分も減っていないホットミルクが残っていた。自分のマグカップとトレードして一口含むと、蜂蜜の優しい甘みが広がっていく。
真っ白の見た目に蜂蜜入りの優しい甘み、隠し味のブランデーは闘志を秘めた熱い性分。このホットミルクは豪炎寺本人そのもののようで、飲むと安心して笑顔になれるドリンクだと思う。

「おやすみ」


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