(11/22)豪風と吹雪



※大人豪風/同棲中



視界に入る細部の小物まで、綺麗なオブジェで飾られた小洒落たカフェ。
辺りを見回すと、自分と似たような環境の者は居らず、それぞれの男女グループで和気藹々とーー若い学生らしいノリで溢れ返った異様な空間のーー盛り上がりを楽しんでいる。
その中、何故ここに自分が座って居るのかも分からないまま連れてこられ、居た堪れない空間につい逃げ腰になるが、隣の豊潤な胸に退路を塞がれてままならなかった。

「お兄さん、ここ居づらいでしょ?ふたりで少し抜け出さない…?」

小声で囁かれる甘い誘いは、明らかに別の色が乗ったもので。一刻も早くこの環境から逃げ出したいのは山々だが、これ幸いと簡単に乗れる話ではない。丁重にお断りをする。
けれどそれで簡単に引く女でもなく、わざと腕を絡ませてきたり足を絡ませてきたり。素早い足技だが、本職に敵うはずもなく。静かにテーブル端の攻防戦を繰り広げながら、この場に自分を連れてきた元凶を恨みがましく睨みつけた。

「何、そんなに嫌だったの?女子大生と合コン」
「嫌っていうか、もちろん嫌だけど、そういう話じゃないだろ」

今回の元凶、そして幹事の吹雪はあっけらかんとした顔で平然と言ってのけた。
一向に話が進まない会話に頭痛がして、こうべを垂れる。
常識的に考えて。いやお前に今更常識があるとは思ってないけど。いやそれでもやる事が筋違いというか、桁違いというか、斜め上をいくというか。
次に口にする予定の言葉を脳裏に並べたが、何を言っても思考回路の造りが違う友人には無駄、という結論に落ち着き、深息をつく。
吹雪は未だにサッカー以外の思考回路が読めない友人のひとりだ。
豊潤女性との攻防戦の最中、別の女性の腰を抱いてその場を去ろうとする奔放さにーー無理やり連れ回した横暴さにーー思わず首根っこ掴んでこんこんと説教した。
自分のルートを阻まれて口を尖らせて拗ねる男のどこが良いんだか、と引く手数多に群がる女性達を見て嘆息する。
合コン参加者の男から幹事の男が店内で説教されている異様な光景から、群がる女性は少しずつ減ったが、それでもめげず最後の一人を口説いて連絡先を交換する根性を最後まで見届けて、恨み言を口にした。

「何さ、せっかく風丸くんの失恋を労ってあげたのに」
「まだ失恋と決まったわけじゃないし、落ち込んでもいないよ」
「でも過去最高級の大喧嘩をしたんでしょ?ふたりが別れたらこういう選択肢もあるってことだよ」

選択肢という矢に心を刺されそうになるが、堪えて論点を修正する。
確かに、喧嘩別れしたら一般女性と付き合うという選択肢も出てくるかもしれないけれども。

「わざわざ気を遣ってくれてありがとう。でも俺たちはまだ別れるつもりはないよ」
「そう思ってるのは相手も?君だけじゃない?」

ーーあいつ、君よりも頑固だからなぁ。
事件の全貌は知らないくせに、恋人の性格を熟知している吹雪は結論を見据えて、遠回りな気遣いをする。
友人として結局憎めないから、トドメは刺さずに許してしまう。
不器用な優しさにはぐらかして答えたけれど、きっと正答は彼も分かっているはずだった。


***


静寂に包まれた自宅に足を踏み入れると、恋人はリビングのソファーで読書をしていた。
口論の末、家を飛び出した時のまま、テーブルの上には飲み残したコーヒーカップが二つ並んでいる。
無言のまま、恋人の隣に腰を下ろし、溜息をつく。
意地の張り合い、言った言わない問題。どうせ事件はないしょうもない発端だったのだから、ごめんと謝れば済む話だったけれど、溜息につられて出た言葉は、それとは違うものだった。

「お前の隣が一番落ち着く」

隣の慣れた熱い体温、深い呼吸、鼻腔をくすぐる太陽の優しい匂い。目を閉じるとそのまま眠れるような安心感と、どうしようもない愛しさを感じて、豊胸な彼女の魅力に何一つ揺れない自分が答えだったと、実感する。

「どういう意味だ、それは」
「そのまんまの意味だよ。お前が好きだ」

硬い表情がやわらかくほどけて、腕の中で崩れていく姿に、そっとキスを贈った。


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