(10/2)豪風 未



今年は例年よりも残暑が続いたおかげで、衣替えが遅くなったけれど。そろそろ秋だな、なんて新しい月に差し掛かって、押入れの整理を始めた。同居人とは好みの服も持ち物も似ているものはないけれど、関わっている仕事上混じると厄介な物はそれぞれの名前の引き出しで分けている。自分の名前の秋冬用引き出しを開けると、久しく着ていないーー体格が変わって着れなくなったーー懐かしいユニフォームが眠っていた。色褪せた青春時代を詰め込んだ青空色のTシャツである。手に取って、防腐剤の匂いに包まれてふと思い出した。そういえば、あいつと初めて会ったのはこのユニフォームを着ていた時だった気がする。誰よりも目を引く存在感に、訳もなく吸い込まれた。無意識で目で追っていたから、瞳が合うと疚しい気持ちが勝り複雑だったけれど、確かに交わった視線に少なからず喜んだ。思うと青春時代は痛々しくも輝かしい時間だった。今ならそう実感する。


***

久々に妹と一緒に食事を摂る事になり、その妹のリクエストで近くのスーパーに立ち寄った。家庭環境が変わり、住む場所もそれぞれで、たまに会う。そんな貴重な時間だから有意義に使いたいと外食に誘ったけれど、彼女は頑なだった。だがそう言われたら、仕様もない。兄というものは。
「具は何にする?」
「んー、かぼちゃに栗にさつまいも…秋の味覚ってどれも迷うのよね。どれでも美味しいんだけど、どれも食べたいみたいな」
「全部でもいいぞ」
「そんな贅沢はしません!でも最近ビタミン不足だから、ビタミン豊富なのがいいな〜」
そう言いながら根菜を見ている妹の隣で、さつまいもをかごの中に入れた。昔からころころと表情の変わる妹だが、最近の言動が段々と主婦らしくなっていて面白く、また恋人に似ていて口元が緩んだ。野菜3つで贅沢なんて、と思いながら前に買い出しに出掛けた時の恋人は野菜は高いから葉っぱ食えればそれでいいなんて言っていたか。あいつは主婦じゃなくてただのずぼらか。納得するとまた笑いが込み上げてくる。
先ほどまで共に過ごしていたはずなのに、妹と居てもぽんぽんと恋人の顔が浮かんできてしまう。これだからお兄ちゃんは、と妹に渋い顔をされるかもしれない。愛しい顔をふたつ脳裏で並べて、リクエストのかぼちゃと栗、ついでに枝豆を追加して、彼女の隣に並んで歩き始めた。


つづく


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