また明日がいつのまにか来てる(完)
「よしっ、んじゃ寒いし帰ろうぜ」
『うん』
少し冷えた名前の身体を抱き上げてバイクに乗せ、来る途中に買った温かい飲み物を持たせる。
「それ飲んだら送る」
『ありがとう』
時間も時間だし、帰りに軽くなにか食いもん買ってくか、なんて考えながら名前を見ていると、不意に、自分とは違う、細い手が頬に触れる。
「ん?どうした?」
『この怪我…、』
「…あー、」
『……もしかして、お父さん?』
視線を逸らすオレに、名前は眉を下げて顔を歪めてしまった。
「そんな顔すんなって。オレは気にしてねぇし」
『でも…、』
「自分の娘が嫁にいくんだから殴りたくもなるだろ」
『嫁…?』
「…え。結婚しねぇの?」
名前をデートに誘う前、ケジメとしておじさん達に会いに行ったら、まぁ案の定殴られた。
「名前に近付くなと言った筈だ!」
「…それでもオレは名前が好きです」
「巫山戯るなッ!オマエのせいで名前はッ!」
「分かってます。だから、」
「責任でも取るつもりか!」
「……違います。オレはただ、名前が好きで、一緒に居たい…、」
両手を床について小さく息を吐いてから、自分の覚悟を言葉に乗せる。
「もう二度と、名前を傷つけさせません。必ずオレが守ります。名前を泣かせない。名前を悲しませない」
「もう遅い!名前はッ、名前はァッ!」
「一生償っていきます。…… 名前をオレに下さい。名前と、一緒に居させてください」
まぁ、その後5発は殴られた。おばさんが止めてくれたから5発で済んだけど。
「…万次郎君」
「……はい」
「名前の事、よろしくね」
「………………はい」
おばさんの言葉の真意をしっかりと受け止めて頷くと、おじさんとおばさんは小さく頷いてくれた。
『け、結婚…』
「まだ先だけどな〜。楽しみだなぁ。名前のドレス姿」
『…でも、私、』
「車椅子でもドレスは着られるし、車椅子が嫌ならオレが名前を抱える」
両腕を名前の首裏に回して抱きしめる。良かった。ちゃんとあったけぇ。
「オレ泣いちゃったらどうしよう…」
『泣かないくせに』
「え?オレ、名前のドレス姿見たら泣く自信あるよ」
そしたらケンチンとか場地とかにバカにされんだろうな。けど、それもいいかも。
「……やべぇ。オレすげぇ幸せかも」
『………それは、私のセリフだよ』
少し身体を離して名前の顔を覗き込むと、幸せそうに目を細める名前に少しだけ泣きそうになったから、それを隠す様に唇を重ねる。
「……愛してるよ」
『………私も、愛してる』
地平線から顔を出した朝日が眩しくて瞼を閉じると、朝日が染みたせいか、少しだけ涙が流れた。
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