絵でも描けないような眺めだった


「マイキー、少しは寝ろって」
「……………」
「ここ数日、まともに寝てねぇだろ」
「…………ケンチン、名前が目、覚まさねぇ」
「…………」

名前が集中治療室に入ってから4日が経った。それでも目を覚まさない。酸素マスクが付けられ、頬にはデカいガーゼが貼られて、治療された筈なのに、なのに、名前は目を覚まさない。

「どうしよう、ケンチン…、」
「…マイキー、」
「オレ、ずっと名前の近くに居ればよかった…。ひとりにしなければよかった。オレのせで名前が、」

ガラスに触れても名前の目は開かないし、見えたのは酷い顔をした自分だけだった。

「何の用だ!」
「………おじさん、」
「病院に顔を出すなと言ったはずだ!」
「万次郎君だって…、」
「うるさい!こいつのせいで名前が!」

小さい頃から世話になってたおじさんがオレに向かって大きく口を開き、怒りを露わにしていた。おばさんは止めようとしてくれたけど、そのおばさんの顔は酷く窶れていた。

「オマエが名前と居るからだ!こんな事になるならさっさと縁を切らせておくべきだった!オマエのせいでっ、名前がッ、」
「………すみませんでした」
「頭を下げたら名前は目を覚ますのか!?傷は!怪我は治るのか!?」

おばさんは涙を流しながら膝をつき、おじさんは頭を下げていたオレの胸倉を掴むと右手を振り下ろした。

「マイキー!」
「帰れ!二度と姿を現すな!」
「………………」

喧嘩なんて何度もしてるし、殴られた慣れてる筈なのに、この人の拳はどんな奴よりも重たかった。

「……オレのせいなのは、分かってます」
「ならさっさと帰れ!」
「……マイキー、」

殴られて倒れ込んだオレは、立ち上がること無く、両手をついて額を地面に付ける。ケンチンが小さく驚いた様な声を出したけど、今は気にしてられなかった。

「…けど、それでもオレは名前も一緒に居たい。守れなかったオレが言う権利が無いのは分かってる。……それでもオレは、」
「オマエのせいで名前がこんな事になったんだ!なのに、なのに巫山戯るなッ!」

おじさんは涙を流し、おばさんを立ち上がらせると、ただ静かに口を開いた。

「……頼むから、もう名前に関わらないでくれ」

顔を上げないオレの腕をケンチンが掴み、立ち上がらせる。

「…マイキー、今日は帰るぞ」

腕を引かれながら顔を横に向けると、胸を上下させ頭に包帯を巻いた名前の姿が目に入り、手を伸ばして一瞬触れたガラスはあの日の名前の様に体みたいに冷たかった。

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