傷つけられてばっかだったのに


「そんで場地がさ」
「…ん?何か携帯鳴ってねぇか?」
「あ?…ほんとだ」

ケンチンに場地の面白話をしていると、携帯が着信を告げていて確認すると彼女である名前からだった。

「もしもーし?名前?」
『マイキーッ!助けてッ!』
「…あ?」

電話に出るなり聞こえた名前の悲鳴に眉を寄せる。するとすぐにその声は遠くなり、知らない男の声がすぐ近くで聞こえた。

「よぉ。マイキーくーん」
「……誰だ。テメェ」
「マイキーくんみたいな有名人が彼女なんて作っちゃ駄目じゃなーい。こうやって利用されちゃうよ?」

その言葉の直後、オレ達には聞き馴染みのある骨が折れる様な音がして、名前の苦しそうな声がした。

「……それ以上そいつに手出してみろ。殺すぞ」
「怖いねぇ〜。まぁ、頑張ってね。マイキーくーん」

通話が終わり、自分の携帯がミシミシと音を立てている事に気付いたが、そんな事どうでもいい。

「ケンチン、みんなを集めろ」
「はァ?」
「……ぜってぇ、ブッ殺す」

右手を捻り、一気に加速して愛車を走らせる。見つけ出したら二度とデカい面出来ねぇようにしてやる。


∵∵∵

「マイキー!名前ちゃんが居るのは2番倉庫だ!」
「………分かった。ありがとな。三ツ谷」

電話を切って、2番倉庫へと向かう。途中から雨が降り出し、視界を遮るが、それでも速度は落とさずにバイクを走らせる。

「…………」
「やっと来たか。無敵のマイキーくん」

倉庫の扉を蹴飛ばし、リーダーであろうしゃがみこんでいる男を睨む。その男はゆっくりと立ち上がると、足元にはぐったりとした名前が居た。

「とりあえず、土下座しろよ。マイキーくん」
「……………」

名前の両手は後ろで縛られ、顔は殴られたのか血が流れ、腕や足には目も当てられない様な痣が広がっていた。

「おーい。聞いてる?マイキーくーん」
「無敵のマイキーが土下座するってよォ〜!」
「ママ呼びまちゅか〜?」
「おら中坊!さっさと土下座〜!」

さっきまで正常に働いていた頭が段々と鈍っていくのが分かる。目の前が真っ暗に染まって、自分の頭に血が上っていく。

「……………」
「マイキーく〜ん、ど、げ、ざ
「パンイチでなァ〜」
「彼女ちゃんも可哀想だよなぁ〜。それもこれも全部マイキーくんのせいなだけど」
「………………テメェら全員ブッ殺す」

男が名前の頭に足を乗せた瞬間、考えていた事が全て吹っ飛んで、右足を蹴り上げていた。
気付いた時には、東卍の奴らがオレの身体を押さえ込んで、リーダーの男を含め、辺りは真っ赤に染まっていた。

「……… 名前」

拘束された腕を解いてやり、腕の中に抱き上げるとその体は酷く冷たい気がした。

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