『今度渋谷でイルミネーションがあるんだって!』
「へー」
『三ツ谷君の予定が合えば、行きたいなって…』
「…あー、ごめん。忙しいかも」
『そ、そっか!そうだよね!』

最近、三ツ谷君は忙しいみたい。あんまり会えなくなって、携帯でしか話せなくなった。三ツ谷君の夢はデザイナーだし、その夢に向かって勉強が大変なんだ。私が迷惑をかけちゃいけない。

∵∵

「クリスマスってやっぱり彼氏と過ごすの?」
『え?……ん、どうだろう…』
「………あんまり彼氏と上手くいってない?」

学校の友達の質問に、なんて答えるべきか迷った。上手くいってないのだろうか。けど、三ツ谷君の方が落ち着けばきっと、前みたいになれる筈。

「とりあえず聞いてみたら?駄目だったら私らと遊ぼうよ!」
『……うん。聞いてみる』

いつもならこんなに緊張する事ないのに、電話を持つ手が震えそうになる。数コールしてから、三ツ谷君の声が鼓膜を揺らした。

「…どうした?」
『あの、…忙しい所ごめんね、』
「いいよ別に」
『……クリスマスって、…空いてる?』

声は震えてはいなかっただろうか。変じゃなかっただろうか。そんな不安が胸を占める中、三ツ谷君の声を待つ。

「……あー、」
『…やっぱり、忙しい?』
「…………少しだけなら、会えるかも」
『本当!?』

自分でも驚く程、嬉しそうな声が出てしまい、慌てて声を潜める。

『なら、私が会いに行くよ。三ツ谷君に出来るだけ負担かけたくないから』
「……分かった」

携帯を閉じて友達に報告する為、席に戻る。私の様子を見て、何となく気付いたのか、友達は笑った。

「約束出来たんだ?」
『うん!少しだけど会えるって!』
「良かったじゃん」

久しぶりに会える事になって、どんな服着て行こう、とか、プレゼントは何にしようか、なんて考えながらクリスマスまで過ごした。

∵∵

『少し早く着きすぎちゃったな…』

三ツ谷君の学校の近くに指定した待ち合わせ場所に行くと、三ツ谷君の姿は無かった。
待ち合わせまでまだまだ時間はあるし、何か飲み物でも買っておこうかな、と思って近くのコンビニに入ってお茶を2本買って外に出る。

『もうすぐだ』

待ち合わせ時間まで残り少しになって、走って待ち合わせ場所まで行くけど、まだ三ツ谷君の姿は無かった。

『…どうしたんだろう』

いつも早めに来ている三ツ谷君に首を傾げながら、やっぱり忙しいのかな、と罪悪感が少し募る。

『……あ、三ツ谷君?』

携帯が鳴って、相手を確認して出ると、三ツ谷君の声が機会混じりに聞こえた。

「悪い。今日行けなくなった」
『……え、』
「ごめん」

暗くなった自分の声に、慌てて笑みを浮かべて声を出す。

『そっか!私の方こそ忙しいのに無理言ってごめんね!』

仕方ないのは分かってる。それでもやっぱり会えるのが楽しみだった。

「また今度埋め合わせする」
『……うん』

腕の中にあるプレゼントを抱き締めると、小さく紙袋が音を立てた。電話を切って、ゆっくりと歩き出すと、空からは雨混じりの雪が降り出して、足を早める。

『………………あれ、』

帰り道の途中、見慣れた髪色に顔を向けると、三ツ谷君が居た。慌てて駆け寄ろうとした時、その隣には私の知らない女の子が居て、足が勝手に止まる。

『…………違うよ、学校の子だよ、…うん、きっとそう』

三ツ谷君は誠実な人だ。そんな事をする様な人じゃない。分かってる。分かってるのに、心臓の音は嫌な音を立てて早くなる。

『……三ツ谷君、』

小さく零れた声は、どこか震えて白い息と一緒に空に昇ることも無く、溶けて消えてしまった。



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