絶ッ対ぇ助けるから
何度失敗しても
何度でも 何度でも
君が助かる未来にたどり着くまで
絶っ対ぇ折れねぇから
どこかで聞いた声だった。その声は神様みたいに優しい声じゃなかったけど、ヒーローのように、強くて真っ直ぐな声だった。
「…オレと一緒に堕ちよう」
マイキーの言葉に頷きそうになった首を思いっきり後ろへと引いて、勢いを殺さずさらけ出されたマイキーのおでこに叩きつける。
『い゛っぁ゛!!』
あまりの痛さにすぐさま床に倒れ込んでのたうち回る。両手で今すぐおでこを抑えたい。けど縛られてて出来ない。痛い。頭なんかより額の痛さがヤバい。
『いだぃ!!やばいこれ!!死ぬ!?私死ぬ!?』
ゴロゴロと体を左右に回転させ、痛みに耐えていると、首元が一気に苦しくなり、体が上に引っ張られる。
「……決めた。テメェは殺す。神に仇なす重罪人は
死体だろ」
気づいたらピンクマンに胸倉を捕まれ、額に銃口が当てられていた。その事に痛みなんか忘れて恐怖が体を支配した。
「……三途、止めろ」
「けどコイツ…!!」
「止めろ」
マイキーの言葉に私を雑に地面に落とすと、舌打ちをして数歩後ろへと下がった。
「……オマエ、何がしてぇんだよ」
『………私の願いは変わらないよ』
床に転がされながら、頭突きを食らっても相変わらず微動だにしないマイキーを見上げて口を開く。
『私はマイキーに幸せになって欲しいよ』
本心から出た言葉に、マイキーはピクリと眉を跳ねさせ、スっと目を細めた。
「12年逃げてた奴が偉そうに幸せなんか願ってんの」
『うん。それが願いだからね』
「姿すら現さず、消息すら綺麗に消してた奴が?」
『それは私が望んで消してたわけじゃない。…まぁ言い訳だね』
不可抗力とはいえ、私は一番辛い時に居られなかった。支えてあげられなかった。けど、その考え自体が間違いなんだ。
『私はマイキーの何にもなれないよ』
「………あ?」
思ったよりも自然と出た言葉だった。けれど、ショックな気持ちも、悲しい気持ちも無かった。
『まず私が幸せにしてあげたい、なんて思った事が違うんだよ。私にはそんな力無いし、少女漫画のヒロインみたいに全てを受け止めてあげられるわけでも無い』
マイキーはただ静かに私を睨みながら言葉の続きを待っているようだった。
『……マイキー、私を見てよ』
いつか聞いた言葉だった。今なら分かる。どうしてマイキーが私にそう言ったのか。
『ちゃんと私を見てよ。マイキー』
痛む額と頭を我慢しながら上体を起こして、広げられない腕を広げる。
『…君は私を何だと思ってんの?』
私は安定剤でも無ければ、何でも受け止められるヒロインでも無い。この世界の人間でも無いし、何でも分かってあげられる訳じゃない。
『けど私は今、ここに居るよ。マイキーの前で息をして、心臓が動いてる。……生きてるよ』
自分でも何が言いたいのか分からない。それでも結局は、私は幸せになって欲しいんだよ。ただ笑っていて欲しいんだよ。
『…言葉にしないと、分からないことだってあるんだよ』
「……オマエに何が分かるんだよ。姿を消したオマエに」
『その何も分からない人間に依存してるのは誰?』
私の挑発的な物言いに眉を寄せるマイキーに小さく笑う。無表情なんて似合わないんだよ。ばーか。
『依存して、12年間も無駄にして。その間に何だって出来た筈なのに』
「……調子に乗んなよ」
『語彙力と身長まで置いてきちゃったの?一緒に取りに行こうか?』
私の言葉にピンクマンの機嫌が下がるのが分かった。けど今ここでマイキーから視線を逸らしたら駄目なんだ。私はマイキーと話をしてるんだから。
『エマちゃんに聞いたよ。タオルが無いと寝れないんだって?可愛いでちゅね〜』
「…………」
『そんなお子ちゃまが首領?その組織大丈夫?』
「………………」
『それにマイキーって頭良くないじゃん。首領なんて向いてないよ』
昔っから私の方が頭が良かったじゃん。テストでも私は1位。マイキーはテストすら受けてない。そんな人間が首領なんて無理だよ。
『マイキーにはどっかの暴走族の総長くらいがお似合いだよ』
特攻服を風になびかせて、騒音も気にせずにバイクで走る迷惑野郎。けど、そんな姿が嫌いじゃなかった。
『……私じゃ助ける事も救う事も、支えてあげる事も出来ない』
それをしてくれるのは私じゃない。もっと泣き虫で、逃げ癖がある、誰よりも真っ直ぐでヒーローみたいな男の子だ。
『けど、私はマイキーと居たいから』
何も出来なくても、いつかまた消えてしまったとしても、私は君と一緒に居たい。
『だから、仲直りしようよ。マイキー』
喧嘩したら、お互いが謝って、仲直りして。また喧嘩しちゃうかもしれないけど、その度に仲直り。
けどマイキーは子供だからきっと謝らない。ここは大人な私の出番だね。
『……置いていってごめん。無責任でごめん』
支えられなくてごめん。そばに居られなくてごめん。この世界の人間じゃなくてごめん。沢山の、ごめん。
『……今も好きで、ごめん』
笑ったはずの私の頬には涙が伝っていた。マイキーは少しだけ目を見開くと、すぐにさっきと同じ無表情になってしまった。
『仲直り、してくれる…?』
今のマイキーがどんな事をしているのか。どんな事に手を染めてしまっているのか。私には分からない。調べる方法も無い。私は狡い人間で、酷い人間だから。
「言っただろ。名前が壊れても、オマエはオレの物だ」
いいよそれでも。マイキーが仲直りしてくれるなら。いつかまた君の笑ってる未来にたどり着けるなら。何だって。
『仲直り記念にたい焼き食べに行く!?』
いつか彼が君を救いに来てくれる未来にたどり着けるなら。
≪ ≫