Don't remenber, Please forget


「名前、少しいいか?」
『なに?』

みんながバラバラに帰っていく中、ドラケンに呼ばれて茂みの中へと足を踏み入れる。

『…ッハ!乱暴なことしようとしてるのね!?』
「…………」
『ごめんなさい…』

ふざけてそう言ったらドラケンに睨まれた。怖かったからすぐ謝ったら、ドラケンはまた溜息を吐いた。そんな若いうちから沢山溜息吐いてたらクセになっちゃうのに、なんて思ったけど、もうドラケンは中学生じゃない事を思い出して、なんか、なんとも言えない寂しさに見舞われた。
ドラケンはフーっと息を吐き出すと、視線を逸らし、口を開く。

『で、どうしたの?』
「オマエ、マイキーに会ったか?」
『いつ?』
「この12年間で」

この12年間、と言われても私には記憶が無い。何をしていたのか、はたまた眠っていたのか。確かに見た目は12分年を取っている。けれど、私の中ではあの七夕の日からまだ時間が経っていない。

『…会ってない』
「まぁ、だろうな」
『……ねぇ、ドラケン、』
「マイキーには会うな」
『……え?』

強くそう言ったドラケンはゆっくりと私を見て、少しだけ苦しそうに眉を寄せていた。

「…オマエがこの12年間何をしてたのかは知らねぇ。けど、マイキーは多分、諦めてねぇ」
『諦めて、無いって…、』
「正直、生きてるのかも分かんねぇ。……12年前、最後に会った時のマイキーはもう、オレやオマエの知ってるマイキーじゃなかった」

どういう事?生きてるのかも分からないって…。どうしてみんなは生きてこうして笑っているのに、彼だけが居ないの。

「名前、東京から逃げろ」
『…は?』
「マイキーが生きているとするなら、オマエは絶対に狙われる」
『狙われるって…、』

小さく笑うように息を吐くと、ドラケンは表情を崩さずに真剣な表情で言葉を続けた。

「マイキーの名前に対する執着心は異常だ。12年間オレ達が忘れてたせいもあるが、オマエの生死も消息も、全く分からねぇ。話すら聞かねぇ。マイキーも多分、手を焼いてるはずだ」
『……』
「けど、またオマエがこうして姿を表したことが分かれば必ずマイキーはオマエを探し出す」
『……けど、』
「悪い事は言わねぇ。……今のマイキーに会うのは止めろ」

ドラケンはそう言って、何故か申し訳なさそうに小さく笑った。

「……東京を、…最悪の場合、日本を出て隠れて暮らせ」
『……ドラケンは、まだ心配なんだね』
「………勝手に、親友だと思ってるからな」
『…きっと、向こうも思ってるよ』
「だといいけどな」

誰の、なんて言う必要は無かった。お互いが小さく笑って、お互いに気付かれないように息を吐く。

「帰っか」
『うん』
「あ、それと、」
『ん?』

茂みから出ようとした時、ドラケンが頭を下げた。突然のことに目を見開く。

「悪かった」
『…は、え?何が!?』
「この12年間、オマエの事を忘れてた」
『それはもういいって!仕方ないって分かってるし!』

忘れるのは仕方の無い事。むしろ記憶があった方が大変な事になる。12年間も消息不明なんて、警察沙汰だ。
ドラケンの頭を上げさせて2人で神社へと戻り、帰る為に鳥居を潜るドラケンに声をかける。

『ドラケン!』
「あー?」
『今!幸せ!?』

私の声にドラケンは少しだけ見開いて、すぐに笑った。

「おう!幸せだ!」

そう言って鳥居を潜ったドラケンを見送り、瞼を閉じる。

『………ごめん、ドラケン。……ありがとう』

けど、やっぱり私はあの人には幸せになって欲しいと思うよ。

「…名前ちゃん?」
『タケミチ君』

後ろから名前を呼ばれて振り返ると、タケミチ君が首を傾げていた。

「帰んねぇの?」
『帰るよ』
「なら送ります」

そう言ってくれたタケミチ君と一緒に夜道を歩きながら色んな話をした。1番驚いたのは橘日向ちゃんと結婚するって事だった。

『本当!?結婚するの!?』
「デヘヘ…、はい!」

やっと彼女を救えたんだ。大切なあの子を。頬が緩んでだらしない顔になっているタケミチ君の横顔を見ながら、さっきまで一緒に居たみんなを思い出す。

「みんな、生きてて、…ヒナも生きてる」
『…うん』
「……幸せ、なんです」

どこかタケミチ君の声は迷いがある気がした。私の勘違いかもしれないし、そうであって欲しいという願望かもしれない。

「そういえば名前ちゃんはオレがタイムリープ出来るの知ってたんだよね?」
『うん。知ってた』
「即答!?」

なら手伝って欲しかったよ…、と肩を落とすタケミチ君を慰める様に背中を叩く。

『でもヒナちゃんが生きててくれて良かった!!』
「それはそうですけどね!!」

投げやりな答え方をするタケミチ君に笑うと、彼も肩から力が抜けた様に笑ってくれた。

「あっ、じゃあオレこっちに用あるんで」
『そうなの?じゃあまたね』

タケミチ君と分かれ、自分の家を目指していると、後ろから肩を捕まれ、反射的に勢いよく振り返る。

「オマエ、苗字名前?」
『………は?誰ですか?』
「いいから答えろ。アンタが名前?」

見るからに怪しいピンク髪に話しかけられた。ファンキーだな。絶対ヤバい奴だ。

『……人違いじゃありません?私の名前は橋本○奈です』
「黙れよブス」

流石に腹が立って言い返そうと口を開いた時、頭に衝撃が走って目の前が眩んだ。まぁ、流石の私も橋本○奈は言い過ぎたかな、とは思ったけど殴る事はないと思います。

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