ああどうか消えてくれ


『………………んぁ?』

重たい瞼を持ち上げると、懐かしい天井が見えた。頭がボーッとする。ここはどこだっけ。私は今まで何をしていたんだっけ。

『……マイキー?』

さっきまでのは全部夢だったのか。この約5年間は一体何だったのか。全てが嘘だったと言われても納得してしまうほどの感覚だ。

『……起きるか、』

体を起こすと、自分はキャミソールで短パンを履いていた。なのにこの色気の無さは何なんだ。けれど自分の体つきは歳相応で安堵するのと同時に、少しだけ寂しさを感じた。

『お腹減った…』

立ち上がって懐かしい台所に立って冷蔵庫を確認する。うん、何も入ってない。

『…あれ、…何これ、』

冷蔵庫を眺めているだけなのに、目の前が歪んで頬に生温かいものが伝っていた。拭っても拭っても溢れてくる。

『…意味、わかんない、』

だって私はずっと帰りたかった。やっと帰って来れたのに。何で泣く必要があるの。

ーー「オレの事はマイキーって呼んでいいよ。名前はトクベツ」

ーー「……オレ、やっぱり名前が好きだ、」

ーー「名前ッ!!」


消えてくれない。膝をついていくら目元と頬を強く拭っても涙は無くならない。瞼の裏からあの人の姿が消えてくれない。

『ま、いきっ、』

きっともう二度と会える事は無い。私は彼の幸せを見届けられない。彼の未来にはきっと隣には私じゃない誰かが居る。

大好き。誰よりも。何よりも。大切で、幸せになって欲しい人。叶うなら、私と一緒に。



どれくらい泣いたか分からない。声を押し殺したせいで喉は焼けたように熱いし、瞼も腫れて重たい。自分の体に水が足りないのが分かる。

『……買い物行かないと、』

何も入っていない冷蔵庫を思い出して、ゆっくりと立ち上がり、必要な物だけを持って外に出る。

『………あれ?』

外を見てすぐに違和感に気づいた。私が住んでいた場所はこんな所だったか?確かに部屋も、家具の配置も私の家だった。けど、決定的に何かが違う。強いて言うなら部屋の外から見える景観。あんな場所にコンビニは無かったし、あんな場所にビルは無かった筈だ。

『………もしかして私、』

まだ漫画の世界に居る…?

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