起きた時、隣にマイキーは居なかった。けど慣れた。むしろ私が起きるまで隣に居てくれる事なんて無かったし。
「おい起きろ!クソ女!」
『……今日の監視は三途君かぁ。せめて蘭君が良かったなぁ』
「あ!?」
大声を撒き散らして入って来た三途君に溜息を吐くと、余計にキレられた。声が大きいんだよなぁ…。
「良かったな!明日もオレだ!」
『聞きたくなかった…』
その後もずっと三途君はうるさかった。マイキーがどうかっこいいだの、強いだの。マイキー信者かよ。
「聞いてるのか!?」
『あー、聞いてる聞いてる。マイキーってそういう所あるよね。直して欲しいよね』
「んな事言ってねぇよ!」
『あれでしょ?トイレから出た時にびしょびしょの手で出てくるから困るよね』
「言ってねぇ!」
でも三途君のいい所は一緒にゲームをしてくれる所だ。うるさいけど。そういえばマイキーの部屋で一緒にゲームしたこともあったな。
「負けた方がケンチンに1発入れる」
『………遠回しに死ねって言ってる?私に』
「負けなければいいだろ〜」
そう息巻いたマイキーが負けてドラケンを殴って喧嘩になってた。私はそれを見て爆笑したけど。
あの頃は楽しかったな〜。ただ馬鹿やって。騒いで。遊んで。子供らしく、子供みたいに。
『……戻りたいなぁ』
その言葉は、自分の世界になのか、12年前なのか、自分にも分からなかった。
「何ブツブツ1人で喋ってんだ?イカれてんのか?」
『三途君だけには言われたくないかな〜』
本気で心配した様にそう言うから腹が立って、ゲームの中で三途君に甲羅を当ててやると子供のようにキレていた。
「そういえや最近、オレ達の辺りを嗅ぎ回ってる奴が居るんだよな〜」
『わー、命知らずが居たもんだ〜』
「それが花垣武道と羽宮一虎らしい」
『………タケミチ君?』
ゲームをしながら言葉を零した三途君の顔を思わず見つめると、ゴールしたのか三途君はドヤ顔をして私を見た。
「っしゃぁ!オレの勝ちだ!」
『花垣武道って!タケミチ君ッ!?』
思いもしなかった名前に思わず三途君に詰め寄る。すると彼は顔を顰めて私の顔を押し返した。
「近ぇんだよ!ブス!」
『タケミチ君か〜!?タケミチ君なのか〜!?答えろぉ〜!!三途春千夜ぉおおお〜!!』
「うるせぇな!!」
三途君は立ち上がると懐から銃を取りだして私に向けた。
「マイキーのお気に入りだか何だか知らねぇけど調子に乗るなよ」
『すぐ銃取り出すの止めなって。イライラしてるとシワ増えるよ?せっかく可愛い顔なのに勿体無い』
「オマエがマイキーのお気に入りじゃ無ければすぐにでも殺してるぜ。オレは帰る。逃げんなよ」
今日はマイキー帰って来るのかな。それとも今日は来ないのかな。そんなことを考えながら三途君を見送ってベットへと倒れ込んで瞼を閉じる。
ーー「いい未来だろ?」
そんな声がした。誰の声かは分からないけど、大好きな声だった気がする。でも、なのにその言葉は何処か冷たかった。
ーー「オマエの長旅もここで終わりだ」
マイキーだ。マイキーの声がする。どうして、そんな
表情してるの。どうして後ろでタケミチ君が血を流してるの。
どうして、君は笑ってないの。
『……マイキーを、…』
唇から漏れたのは音にもならない程震えた自分の声だった。お願い。お願い。君しか居ないの。君にしか彼を、
ーー「…助け…に…、助けに行くよ…」
ーー「何度だって、助けに行くよ…」
ーー「君の為…なら…、何度でも…」
その瞬間、ハッと息を飲む自分の声で目を開いた。
『ハァッ、…はぁッ、』
荒い呼吸の中、こめかみに伝う涙に気付いて拭う。何が助けてだ。何が救ってだ。他力本願もいい加減にしろ。
『……助けてみせるよ』
何が出来るかなんて分からない。何も出来ないかもしれない。それでも、誰かに頼るだけで何もしないなんて嫌だ。私は、私の出来ることをする。
『…やっぱり君は凄いね、タケミチ君』
そう言葉を零して小さく笑った時、部屋の扉が開かれマイキーが静かに足を踏み入れた。
『…マイキー』
マイキーは私を捉えると、スっと目を細めて近付いた。泣いた事がバレてないだろうかと内心バクバクしながら歩みを進めるマイキーを見上げる。
『おかえり。今日は早かっ、』
ほんの一瞬、たった数ミリ視線を逸らしただけなのに、気付いた時にはマイキーが私の上に乗って、天井とマイキーしか見えなくなっていた。そこでやっとマイキーに押し倒されたんだって気付いた。
『………マイキー?どうしたの?』
「…誰を見てる」
『え?』
静かに響いたマイキーの言葉には、隠しきれない黒い何かが乗せられていた。
『ま、マイキー?』
「オマエの頭には誰が居る?」
『ど、どうしたの…、本当に、』
「オレ以外がオマエの中に居る事は許さねぇ」
マイキーはそう言うと薄く唇を開き、顔を寄せた。長い前髪の隙間から見えた瞳は、まるで、
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