君が夢を見るならば




「近くにたこ焼き屋が出来たらしい」

『へぇー』

「だから今からオレと名前で腕相撲して負けた方が奢りな」

『だからの使い方間違ってるし、私が勝てる可能性が限りなくゼロなんだけど』

「限りなくっつーか、無い」

『おい』





当然の様に私の前の席に腰を下ろすマイキーを睨むと、彼はニシシ、と上機嫌に笑った。もうすぐ夏も終わる。私がこの世界に来てから半年近くが経ってしまった。帰れる手立てはまだ見つかっていない。





「じゃあ喧嘩でもいいけど」

『それこそ勝てる可能性無いじゃん』

「奢って」





ハートが付きそうな程、上機嫌にそう言ったマイキーに舌打ちを漏らすと、ガッと頬が片手で掴まれて顔を覗き込まれる。





「なんか文句あんの?」

『むしろ無いと思ってるマイキーの頭が心配』






この数ヶ月の付き合いで分かったことがある。基本的にマイキーは私に手は上げない。殴る事も無ければ、蹴る事も無い。こういう荒い事はするけど、そんなに痛いわけじゃないし、本気でキレてるわけでもない。






「なら晩飯食いに行こうよ」

『えー』

「は?嫌なわけ?」

『マイキーと居ると喧嘩に巻き込まれる』

「その度に助けてやってんじゃん」

『まず喧嘩に巻き込まれてることが可笑しい事に気付け?』





机に肘をついて頬杖をするマイキーは可愛子ぶって頬に空気を貯めて私を睨んだ。はいはい、可愛い、可愛い。





『たこ焼きよりお好み焼き食べたい』

「あ、オレいい店知ってる」

『お好み焼きなら行ってもいい』

「なんで上から目線なんだよ」

『くるしゅうない。良きにはからえ』

「調子乗んなよ」





頭がリンゴの様に片手で掴まれるけど、大して痛みも無いし、マイキーもすぐに手を離して鼻歌を歌い始めたから上機嫌な様だ。次期東卍の総長の機嫌が良さそうで何よりです。



∵∵




「苗字ー」

『なに?』





マイキーがサボりの日、帰ろうと荷物をまとめているとクラスの男の子に声をかけられて、仕方なく手を止める。





「今日一緒に帰らない?」

『…家の方向一緒だっけ?』

「え?…お、おう!一緒!」






佐藤くんの家は逆だった気がするが、彼が一緒だと言うのだから、まぁ、いいか。ランドセルを背負ってふたりで門を出て、道路を歩く。






「苗字ってマイキー君と仲良いよな」

『…仲良いっていうか、イジメられてるの間違いだよ』

「マイキー君、怖くないの?」

『最初は怖かったけど、今はそうでも無いかな』






会話するのも疲れてきたし早く家つかないかな、なんて思いながら石を蹴ると、溝にハマってしまい仕方なく顔を上げると、前にはマイキーが立っていた。





『マイキー?サボってたんじゃないの?』

「……そろそろ名前が帰って来ると思って待ってた」

『何か用だった?』






どこが機嫌が悪そうなマイキーは私から視線を逸らすと、隣に居た佐藤くんをスっと睨んだ。すると佐藤くんはビクリと体を跳ねさせ、声を裏返させながら私に手を振った。





「じゃ、じゃあ!俺帰るから!またな!」

『うん、また明日』







急ぎの用があるなら一人で帰れば良かったのに。そう思いながら急ぎ足で帰る彼を見送っていると、マイキーが私の手首を引いた。





「………」

『…マイキー?』

「………今の誰?」

『同じクラスの佐藤くんだよ』

「知らね。だから明日から話すの禁止」

『……はい?』





マイキーの我儘は幾度と無く聞いてきたが、ここまで横暴な我儘は初めてだ。それにその我儘を私が聞く必要は無い。





『それは無理。同じクラスだし』

「は?」

『係も同じだから』

「知らねぇし」





どうしてマイキーがここまで機嫌が悪いのか分からない。サボっていたんだから機嫌は良いはずなのに。溜息を隠すこと無く吐き出すと、マイキーが眉を寄せて私を睨んだ。





『その我儘は通らないよ』

「何で」

『生活に支障をきたすから』

「別にアイツと話さなくたって生活出来るだろ」

『係の話とかあるし』





眉を寄せていたマイキーはその表情すら消し、ただジッと私を見つめた。一体何なんだ。まるで束縛が激しい彼氏じゃないか。





『なにマイキー。私の事好きなの』

「……はァ?」






冗談でそう言うとマイキーは首を傾げ、また眉を寄せた。表情が戻った事に人知れず安堵しながらもそれを隠してマイキーの言葉を待った。





「名前の事は嫌いじゃねぇけど、好きでも無い」

『……ある意味傷付く答え』

「面白いし気に入っては居るけど、オレはもっとナイスバディのお姉さんがいい」






考えるように腕を組んでそう言ったマイキーをジト目で睨みながら歩き出すと、機嫌が直ったのか、興味が無くなったのか、マイキーは私の隣を歩いて楽しそうに口を開いた。





「このままどら焼き食いに行こうぜ」

『宿題あるから無理』

「どうせ名前すぐ終わるじゃん。ついでにオレのもやってよ」

『ふざけんな。自分でやって』

「ガリ勉の癖にケチくせぇ」






成人済みの人間に小学生の問題は簡単なだけだ。ガリ勉なわけじゃない。カンニングみたいで少し気分は悪いが、頭良いねと言われるのは悪い気分じゃない。






『お姉さんにモテたいなら勉強したら?』

「お姉さん達は少しバカな子の方が可愛がってくれんだよ」

『どこ情報それ』

「昨日見た家庭教師もののAV」

『だからどっから拾ってくるのそういうの』






何故か事細かにそのAVの話をしてくるマイキーに呆れながらも、適当に相槌を打ってどら焼き屋さんを目指している私は優しいと思う。早く好みのお姉さんでも見つけて、私から興味を無くして欲しいものだ。




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