月を砂糖漬け



「今日は席替えするぞ」



1時間目から担任の先生がそう言った。席替えかぁ、なんて呑気に思いながら黒板を眺めているといつの間にか席替えは終わっていた。




「よし、移動しろー」





先生の声でみんなが机をガタガタと移動させる。教科書が入った机重いな、と眉を寄せながら新しい席に辿り着いて座ると、前の席には以前にも前後になったことがある海山君が座っていた。




『また前後だね』

「よろしく」

『よろしくね』




お互いに軽く愛想笑いを浮かべて、さて授業だ、となった時、私達の間に影が差して顔を上げるとマイキーが私の机の横に立っていた。




「マ、マイキー君?」

『マイキー?』

「オレと席変わって」

「……え?」

「オレと、席変わって」




ニッコリと笑いながらそう言ったマイキーに海山君は顔を青ざめさせてしまった。




『私が席変わるよ』

「は?それじゃあ意味無ぇじゃん」

「い、いいよ、俺変わるよ、」

「マジ?さんきゅー」




マイキーは床のダメージも気にせずに片手で机を引き摺って私の前の席に移動し、背もたれに両腕を付いて逆向きに座り、私を見て楽しそうに笑った。




『マイキー、授業始まるよ』

「名前と近いなら学校来てもいいかもなぁ」




私は少し呆れながら小さく笑いながら何となく先生を見ると、何故かサムズアップされた。先生的にもマイキーには少しでも学校来て欲しいんだろうな。義務教育とはいえ、登校してくれないと困るだろうし。




「最近寒ぃよな」

『バイク乗るの大変じゃない?』

「んー、まぁそれもまた楽しいんだよなぁ」




中学生だから本当は乗っちゃいけないんだけどね。けどマイキーが楽しそうに話すから、苦笑を浮かべながら相槌を打つ。





『クリスマスも集会あるの?』

「あー、多分なぁ。チームのみんなとバイクで走っかも」

『そっか』




マイキーが楽しそうなのは私も嬉しい。東卍のみんなと居るなら、そこに私が入ってしまったら邪魔だろうし、今年はエマちゃんとでも過ごそうかな。




「…………」

『なに?』





両肘を私の机に付いて、上目遣いで私の顔を覗き込んでくるマイキーに首を傾げると、彼は嬉しそうにニンマリと笑った。




「名前が会ってくれるなら途中で抜けてくっけど?」

『え?』

「んでオレのバイクで走ろうぜ。名前のメットも買っておいたからさ」




ニッと歯を見せて笑うマイキーに目を見開くと、手のひらに温もりを感じて視線を向ける。マイキーの手が私の手を包んでいて、その指がゆっくりと私の指を絡めとる。




「デート行こうぜ」

『………付き合ってないのに?』

「オレは付き合いたいし」




マイキーはあの日から素直になった。こうして恥ずかしげもなく言葉にするし、隙あればスキンシップを取ろうとする。それが妙に恥ずかしくて、こそばゆい。





『……安全運転なら、いいけど、』

「よっしゃ!約束な!」





小指を差し出すマイキーに、小さく笑って自分の小指を絡める。




「楽しみだなぁー」

『いつもと変わらないじゃん』

「オレは名前と居られれば良いんだよ」




当然の様にそう言ったマイキーに何とも言えない気分になる。微妙な顔をするとマイキーが目尻を下げてフッと笑った。





「さっさと降参してオレのになればいいのに」

『……ならないし』

「あっそ」




素っ気ない言葉だったけど、自信あり気に笑っているマイキーに腹が立って消しゴムをちぎって投げつけると、何故か頭を撫でられた。意味分かんない。





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