椅子取りゲームの勝者のために
「マイキーと仲直りしたんだって?」
『仲直りっていうか…、うん、まぁ、仲直りかな』
「あのマイキーをよく丸め込めたな」
マイキーと仲直りした次の日、たまたま登校中に会ったドラケンと一緒に歩きながら学校を目指す。
『丸め込んだって…。そういえば今日は学校行くんだね』
「マイキーが珍しく学校行きてぇってさ」
『え!?あのマイキーが!?』
これは天変地異の前触れだ。今すぐ帰って家族と避難しないと。そう思い踵を返した瞬間に首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られる。
『…最近、ドラケンの私の扱い酷い気がする』
「あ?変わんねぇよ」
『嘘だ…、前はもっと優しかった筈なのに…』
首が締まりながらもマイキーの家に辿り着き、何故か私までマイキーの部屋まで連れて来られた。完全に遅刻のやつ。
「ほらマイキー起きろ。今日は学校行くんだろ」
『………起きないみたいだから私は先に行くね』
「マイキー」
先に行くと言ったのにドラケンの手は相変わらず私の首根っこを掴んでいる。器用にもドラケンは片手でマイキーの布団を剥いで本気で起こしにかかった。
「マイキー、起きろって」
「………ケンチン?」
「学校行くんだろ」
軽く目が覚めたのか、マイキーは目を開かないまま重たそうに体を仰向けにした。そのせいで伸びかけている髪の毛がベットへ広がった。
「名前も来てるぞ」
「……名前?」
「おう。だからさっさと起きろ」
「……名前、」
薄らと瞼を持ち上げたマイキーは両腕をふらつかせながら私へと伸ばす。その腕は何だ。私にどうしろというんだ。
「…名前、」
「呼んでんぞ」
『呼ばれても何をするの?そこまで身長が変わらないとはいえマイキーを抱き上げるのは無理だよ』
背はあまり高く無いが、マイキーは筋肉の塊だ。脂肪より筋肉の方が重いんだぞ。つまり何が言いたいかと言うと、早く学校に行かせてくれって事だ。
「…名前、…………名前、」
『……あー、はいはい。名前ですよー。学校行きたいからマイキー、起きてよ』
空中を彷徨っていたマイキーの両手を掴んで体を起こしてあげると、そのまま腕が引かれていつの間にかマイキーの腕の中に居た。
「……オレ今日、休もっかな」
「珍しく行くって言ってただろ」
『……マイキー、離して』
聞く耳を持たないマイキーは私の髪に頬擦りをしながらまた寝るつもりなのか体重を私にかけた。
『マイキー、私学校行きたいんだけど』
「えー…。このままツーリングがいい」
『もう目、覚めてるじゃん』
仕方なくマイキーの背中をリズム良く叩きながら小さく溜息を吐く。
「髪結んでやるから」
「んー…」
マイキーは私から離れると眠そうに眉を寄せながらもベットの縁に座り、ドラケンが後ろへと周り慣れたようにマイキーの前髪を縛っていた。
「名前」
『なに?』
マイキーはドラケンに前髪を縛られながら軽く両腕を広げるから首を傾げる。
「おいで」
『……………』
微笑みながら甘くそう言ったマイキーにグッと息を飲む。なんでそんな顔してるの。今までそんな顔顔も声も出さなかったくせに。
「オマエら、オレが居ること忘れんなよ」
縛り終わったのかドラケンは立ち上がってマイキーの鞄を持って部屋から出て行った。何とも言えない恥ずかしさを感じながらもドラケンの後を追った。
∵∵
「帰りにたい焼き食いに行こうぜ」
「まだ学校にすら着いてねぇって」
『私たこ焼き食べたいなぁ』
既に2時間目に突入している時間に登校している時点で急ぐ事は止めた。3人でゆっくりと歩きながら学校へと向かっていた。
「で?オマエら付き合ったわけ?」
「付き合った」
『付き合ってない』
「見事に食い違ってんな」
付き合ってない。マイキーだって分かってるのに悪ふざけが始まった。ジト目でマイキーを睨むと、楽しそうに笑って目を細めた。前髪を上げた姿は私が漫画で読んでいたマイキーだった。
「その目止めろ」
『ぶぐっ、』
マイキーは一瞬で無表情になり、私の頬を片手で鷲掴みにした。たった一瞬、漫画を思い出しただけなのに、マイキーにはバレていたみたいだ。
『ごめんなひゃい、』
鼻を鳴らして少し不機嫌そうにそっぽを向いて歩みを早めてしまった。ドラケンと顔を見合わせ、小さく息を吐いて後を追った。