光ばかり見ていたからきっと馬鹿になってしまった





『……………』



やっちまった…。仕えている家の次期当主にキスしちまった…。いやでもまぁ、したのは俺からじゃないし。坊がした事だけど…。だとしてもお世話係が次期当主に手を出すって…。それ以前に成人が未成年に手を出すって…。





「名前君」

『っうあ!?はい!?』

「話聞いてた?」

『……すみません』

「もう1回説明するからね?次はちゃんと聞いててよ?」

『はい…』





坊の根回しで補助監督になった俺だけど、苗字家の次期当主なのは変わらねぇし、家の仕事もやらなければならない。






『……そもそも、何で坊は俺にキスしたんだ?』







空気に飲まれた俺も悪いけど、普通キスするか?俺男だぞ?
俺が可愛い女の子とかなら分かる。傷心中にキスしたくなる気持ちも。俺なら女の子に抱きしめられたらキスしちゃうね。





『…人肌が恋しかったんだな』






高専内に女の子は居るだろうけど、坊は恋人が居ないのかもしれない。けど、あの感じだと相当女の子で遊んでいると見えた。何にせよ、坊はきっと相当寂しかっただけだろう。





『じゃなきゃ男にキスなんかしねぇよな!』




総結論づけて仕事に取り掛かった。どうせ坊と任務が被ることなんて無いし、坊は多忙の身だ。そうそう会うことも無いだろう。





∵∵∵






「つーわけでよろしく」

『……よろしくお願いします』






言ったそばからこれだ。坊の任務について行くことになってしまった。車の後部座席に乗った坊に溜息を吐きながら任務に向かう。






「名前ー、腹減った」

『これから任務ですよ』

「任務面倒臭ぇ…、」

『もうすぐ着きますから』






駄々をこね始めそうになる坊を宥めながら任務地へと向かい、着き次第帳を下ろす。





『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』

「すぐ終わるから」

『はい』





それから20分経った頃、無傷で戻って来た坊に驚きながらも、まぁそうか。と納得する。





『高専までお送りします』

「俺外泊届け出してっから」

『え?ならどちらに…』

「名前ん家」

『……はい?』

「このまま名前ん家泊まる」

『初めて聞いたんですが…』

「今言った」






坊の我儘は今に始まった事では無いが、あまりにも急すぎる。けれど断る訳にも行かず、高専に連絡し、車を借りる事を説明して家を目指した。






『着きましたよ』

「おー、」

『私の家で何するんですか?何も無いですよ』





車を停めて、坊と一緒に庭を歩いて家を目指す。報告書は明日でもいいか、なんて思いながら、明日の仕事が溜まっていく事を考えてゲンナリした。





「晩飯なに?」

『大したものは出ませんよ。五条家とは比べ物になりません』

「晩飯作んの名前?」

『いえ。うちにはうちの料理番が居ますから』

「ふーん。俺、名前が作ったのがいいんだけど」

『………それは、私に作れと?』

「そう」






俺は面倒臭ぇと思いながらも、仕方ねぇか、と小さく頷く。坊は満足したのか俺の頭をポンポンと撫でると、靴を脱いで部屋に上がった。






『…………え、』






俺は呆然と立ち止まり、撫でられた頭に触れて瞬きを繰り返す。今のは一体なんのムーブだったんだろうか。





「あー、腹一杯になったわ」

『それは良かったです』





夜ご飯を終えて坊は俺の部屋に来るなりバタンと仰向けに寝転んだ。





『坊は客間を使ってください』

「は?俺この部屋で寝っけど」

『…ここは客間でも何でもない私の部屋です。もっと綺麗な部屋がありますから』

「嫌だ。ここで寝る」

『……坊、』

「別にいいだろ。初めてなわけじゃねぇし」

『坊は五条家の次期当主なんですよ?もう少し自覚を…』

「あー、はいはい。ジカクね、ジカク」






聞く耳を持たず適当に返事をする坊に呆れながらも、押し入れの中の布団を取り出して敷く。
すると襖の向こうから名前を呼ばれ、動きを止める。





「名前君」

『はい』

「今時間大丈夫かしら?」

『はい。大丈夫です』





襖を開くと、俺の屋敷に仕えている女中が床に膝をついて頭を下げた。





「五条様が居られるところ失礼致します」

「いいよー」

『どうかしました?』

「今度のお見合いの話で少し相談が…、」

「………………は?見合い?」

『日程とかですか?』

「はい」





日程を決めるとなると高専に行って任務日程を見なければいけない。今ポンッと決められる事じゃないし、後日でいいか、なんて頭の中で考えて口を開く。






『予定を見てからじゃないと決められないんで、とりあえず今度でもいいですか?』

「はい。かしこまりました。ご当主様にもそうお伝えしておきます」

『よろしくお願いします』





襖を閉じて小さく息を吐き出す。本格的に決まり始めたお見合いに頭痛がした。結婚なんて柄じゃないし、願望も無い。波風立てないように断る方法をいくつか思い浮かべていると、不意に手首が掴まれ、気づいた時には布団の上に転がっていた。






『………坊?』

「見合いなんて俺聞いてねぇんだけど」

『え?…だって坊に言う必要は、』







俺の答えに納得出来なかったのか坊は眉を寄せると、ひとつ舌打ちを零した。何故機嫌が悪いのか分からない俺は首を傾げることしか出来なかった。





「会ったことも無ぇ女と結婚するつもりかよ」

『まだ決まったわけじゃ…』

「俺がキスした意味分かってねぇの?」

『…い、意味…?』





あのキスに意味なんてあったのだろうか。強いて言うなら人肌が恋しいからでは無いのか。男が好きでは無い限り、キスに意味は無いと思う。俺は女の子が好きだし。






「分かってねぇのがマジで腹立つな」

『男同士のキスに意味なんて無いじゃないですか』

「名前とキスした意味を聞いてんだよ」






坊の言っている意味がよく分からない。俺とのキスこそ何の意味も無い。坊は何が言いたいんだろう。





『…ちょっ、ちょっと!?』

「うるせぇ」







坊は俺のワイシャツに手をかけるとボタンを外し始めた。まさかの行動に慌てて坊の手を掴む。







『風呂くらい自分で入れます!』

「風呂の為に脱がす訳じゃねぇよ」

『なら何で…!』

「裸でヤる事なんてひとつだろ」

『俺は男ですッ!』

「だから何だよ」

『は?』










顎を引いた坊はサングラスの上から宝石の様に綺麗な瞳が見えて呼吸が止まる。その瞳はどこか燃えている気がした。







「男同士でもセックス出来んだよ」

『だっ、だとしてもっ!何で俺と坊が…!』








ボタンが全て外され左右に開かれる。肌が空気に触れて少し擽ったかった。坊は俺の腹の辺りに手のひらを当てて重たく口を開いた。








「俺が名前の事好きだから」

『………は、』









それだけ言って坊は俺の首元に噛み付いた。けれど痛みはあまり無く、熱い舌が首筋を伝う。








『お、俺だって坊の事は好きですけど…!』

「俺が言ってんのは恋愛として。性的な意味で、セックスしたいって意味で言ってんの」







軟骨辺りに坊の歯が当たったと思ったら、耳の形をなぞるように坊の舌が這う。その間も坊の手のひらは腹をなぞってズボンのベルトを外す。






『ぼ、坊…!』

「俺は家族でも無ぇし、弟でも無ぇ。ましてや何も知らねぇガキじゃ無ぇ」






そう言った坊の顔は男の子でも、子供でも無い、ただの男の顔だった。だからこそ俺は坊の肩に両手を置いて距離を取る為に力を込める。






『駄目です…!こんな事ッ!俺達は侍従関係です!』

「俺にはそんなの関係無ぇし」

『こんな事したらっ、俺達は…!』






純粋な侍従関係では無くなってしまう。というか俺の首が飛ぶ。けれど俺の気持ちを知ってか知らずか、坊はズボンの中に手を入れてパンツの上から俺のを撫でて言葉を発した。






「そんな関係、俺がブッ壊してやるよ」







パンツの上からとはいえ、やわやわと刺激が与えられ少しずつ硬さを持ち始める自分のブツに焦りながら必死に坊の腕を掴む。






『ぼっ、坊…!』

「坊って呼ぶの止めろ」






坊は動かしにくいからなのか、俺のズボンとパンツを一気に脱がせると直接俺のに触れる。







「オマエだってしっかり勃ってんじゃん」

『こっ、これは!不可抗力です…!』

「ふーん。まぁどうでもいいけど」







本当にどうでも良さそうに言った坊はそのまま俺の唇にカブりついて俺の唇を甘噛みする。絶対に口を開くもんか、と固く閉ざしていると、俺の性器の尖端がグリグリと刺激されて息が漏れる。
それを見逃さなかった坊は舌を滑り込ませ、絡め取る。舌を引っ込めても深くまで追いかけられ、口内を堪能するように坊の舌が蠢く。





『んっ、…ぼ、…ンッ、』

「…ヘタクソ」







俺は決して下手くそじゃない。今は拒絶する為だ。下手くそじゃない。決して。
坊はフッと目を細めると手で輪っかを作り、俺のを扱き始める。本格的に焦っていると、坊は扱いている手とは逆の手でサングラスを荒く外すと放り投げた。






「本気で抵抗しなくていいのかよ?嫌なら術式でも何でも使って拒めよ」






確かに坊の言う通り、術式やら呪力やらを使えば逃げられる。けれどそれが出来ないのは、






「………結局、オマエの中で俺はどう足掻いても次期当主様なんだな」







傷付いたように顔を歪める坊に心臓が嫌な音を立てた。小さな頃から見ていた、お世話をしてきた子の苦しそうな顔なんて、誰だって見たくないだろ。同情の念を持つなって方が無理な話だ。






『坊、………………坊ッ!?』









あろう事に坊は俺のブツに顔を寄せて舌を出した。俺は驚きながらも反射的に坊の頭に手を置いて力を込める。






『なっ、何するつもりですか!?』

「何って…、フェラだけど」

『正気ですか!?』







目を見開いて半分叫ぶように言うと、坊は輪っかにした手をそのままに親指で尖端を刺激した。そのせいでビクリと体が揺れて、腕の力が抜けた。坊は舌でなぞる様に下から上へとゆっくりと舌で舐め上げた。






『きっ、たないですからっ!』

「案外舐めれるできるもんだな」







坊も男だからどこをどう弄られたら気持ちいいのか分かってるんだ。男が男のイチモツを舐めるって普通嫌じゃねぇのか。俺だったら多分無理だ。だというのに坊は、あー、と口を開き、俺のをズブズブと飲み込んだ。





『ぅ、あッ、』






唾液をたっぷりと含んだ坊の口内は正直、めちゃくちゃ気持ちいい。次第に下品な音が部屋に響き始め、目の前が霞み始める。






『ッ、…はぁッ、』







ぢゅぶぢゅぶと坊の口から音が鳴り、チラリと坊の方へと視線を向けると、瞳が交わって、坊はふわりと笑った。その事にピクリと体が揺れて一気に射精感に襲われる。





『ぼ、んっ、離してっ、』

「ん、…出せばいいじゃん、」

『ぅあッ、』






本気でまずい、と思いながら坊の頭に手を置くけど大して力が入らず、グシャリと坊の柔らかい髪を掴む。






『ぅいっ…!?』







突然、尻の穴に違和感を感じて腰を浮かせ坊を見ると、右手は俺のに触れているものの、左手が俺の尻の穴をグリグリと刺激していた。






『な、にしてっ、』







中には入れられていないものの、腹の指で擦ったり撫でたりする手つきに喉が反る。
そんな俺に気付きながらも奥まで咥え込む。俺は射精感に耐えきれそうになく、坊の頭を押し返す。





『坊ッ、ほんとうにっ、出るっ、からぁっ、』

「出せば」

『ッあ、んッ、ッ!』





ビクリと大きく腰が揺れて出る感覚に一瞬ボーッとするものの、すぐに我に返って上体を起こして坊を見やる。坊は口元を親指で拭うと、ゴクリと喉を鳴らした。






『…………………』

「なに」

『……………申し訳ありませんッ!!!』






俺は下半身を露出したまま、布団の上で土下座をする。坊は顎を上げて怪訝そうに顔を歪める。





「は?何が?」

『ぼっ、坊にっ、こんなっ…!』

「俺がした事だし」

『だからって…、こんな…、』






土下座から項垂れて蹲ると、坊はまた舌打ちを零した。その音に顔だけを持ち上げると、顎が掴まれて乱暴に唇が重ねられた。自分の精液の味がして少し顔を顰める。






「これで分かっただろ。俺が名前の事本気で好きだって」

『……へ、』

「じゃなかったら男のちんこなんてしゃぶるわけ無ぇだろ」






そう言って坊はもう一度唇を重ねた。さっきとは違って優しく、甘いキスだった。





「今すぐに返事を聞いたってオマエは断るんだろ。だから今は聞かねぇ。……けど、これからは手加減しねぇからな。本気で落としにいく」





坊の表情は巫山戯てなんていなくて、至極真面目な表情だった。それにチラリと視界の端に見えた坊の性器は服の上からでも分かるほど膨らんでいた。






「………見てんじゃねぇよ」

『す、すみません…』

「心配しなくても襲わねぇよ」

『……半分襲われた様なものでは?』

「オマエは気持ちよかったんだからいいだろ」







その理論は可笑しい気がするけど…。とは言えず、口を噤む。坊は辛いだろうに俺の頭を数回撫でると、小さく笑ってズボンを俺に渡した。







「とにかく風呂入って来いよ」

『は、はい、』




俺はパンツとズボンを履いて襖を開いて廊下に出る。その瞬間、さっきまでの羞恥を思い出してしゃがみ込む。





『………あー、クッソォ…、』







あんな顔して笑うなんて狡いだろ。しかも歳下とはいえ、自分の仕えている主に口で咥えさせるなんて。しかも手加減しねぇってなんだよ。好きってなんだよ。俺男だし。しかも侍従関係にあるし。






『やっちまったぁ…』






燃えたように熱い頬を抑えながら逸る心臓を抑えて言葉を零しているのが襖の向こうにも居た事を俺は気付きもしなかった。



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