雨は解れてもういない





『ご入学おめでとうございます、坊』

「ん。まぁ高専だけど」

『あんなに小さかった坊が、高校生だなんて…、』





腕で涙を拭うと、坊はどうでも良さそうに身に纏っている自分の制服を見下ろした。俺と同じカスタムの制服は、坊が着ると自分と同じ物とは思えなかった。






『背、伸びましたね』

「名前より高ぇし」

『…昔はあんなに小さく可愛らしかったのに、』





わざとらしくそう言うと、坊は俺の前に立って俺を見下ろした。近い距離に数歩下がると、その分坊が近付いて俺の背中に片手を回して動けなくなった。





『坊?』

「…やっと、追い越した」

『……あぁ、身長ですか?坊は本当に伸びましたねぇ。すっかり男の子です』

「……男の子じゃねぇ」

『え?』







坊は俺の耳元に唇を寄せると、掠れた声で一言、低く言った。







「……男、なんだよ」

『……坊、』





顔を上げた坊の瞳は真っ直ぐで、冗談を言っているようには見えなかった。俺は坊の両肩に手を置いて小さく笑って口を開く。






『そうですよね!坊だっていつまでも子供扱いは嫌ですね!坊も立派な“漢”ですもんね!』

「………は、」

『すみませんでした!それじゃあ今日は、坊の入学祝いでパーッといきましょう!』





坊から離れて晩御飯の献立を考えながら部屋を出る。廊下を歩きながら、いい声だったな、なんて思いながら耳を掻いた。



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