さんじゅう


『………侑』

「……」



名前が地元に戻ると話した次の日、宮家の近くに訪れていた。すると名前の狙い通り侑は帰ってきたのだが、侑は名前を見つけるなり表情を消して視線を逸らし通り過ぎる。



『侑っ、話聞いてよっ、』

「馴れ馴れしく触んなや」

『っ、』




通り過ぎる侑の腕を掴むと、侑はその腕を振り払った。名前は侑の冷たい視線に一瞬たじろぐ。



『いきなり、実家に帰るって話したのは…、……ごめん、』

「…別にどうでもええわ」

『……私はちゃんと、侑と話がしたい』

「俺はしたくないわ」



侑は名前の方へと振り返ること無く言葉を続ける。



『あつむ、』

「……はぁ…、」



名前が小さく名前を呼ぶと侑は大きなため息を吐き出して、ゆっくりと振り返る。名前はそれが嬉しくて少しだけ顔を上げると侑は名前の顔を覗き込む。


「……さっきからうっさいねん。目障りや。家の近くで待ち伏せてストーカーか。きしょいわ」

『…っ、』

「……さっさと消えろ」





凍てつく様な瞳で睨まれて、動けずに居ると侑は何でもなかった様に街頭の下を歩いて行ってしまう。


街灯の明かりと侑の髪が反射して酷く目眩がした。




********




「……」

『………』

「……ええ加減にせぇよ」



侑はピタリと足を止めて振り返る。



「毎日毎日毎日…、ほんまに通報すんで」

『………これだけ、渡したくて、』

「……………」




名前は侑に向かって紙袋を差し出した。けれど侑は受け取ろうとはせずにただじっと眺める。




『………誕生日、だから、』

「……」


差し出された紙袋は綺麗にラッピングされていてプレゼントの様だった。


「……」

『……』

「……きもいわ」

『……っ、』




侑はバシりと紙袋を手で払い除けると、プレゼントは勢い良く吹き飛んで壁にぶつかりグシャリと音を立てて地面に転げ落ちた。




『………』



名前が驚いて目を見開いてプレゼントを目で追うと侑は名前の胸ぐらを掴み上げて壁に押し付ける。




『ごほっ、』

「……」



背中に衝撃を受けて咳き込むと侑が眉を寄せる。




「……ほんまにうざいわ。俺言うたよな?俺の視界から消えろって。日本語分からなかったか?」

『あ、つむ、』

「喋んな」

『っ、』



侑はギリっと力を強めるとその分、名前が苦しそうにシワが寄せる。



「ほんまに目障りやねん。お前を視界に入れるのも声を聞くのも腹が立つ」

『…っ、』

「嫌いな奴に構ってやるほど俺は優し無いで。言うたやろ。俺下手くそも嘘つくやつもほんま大嫌いやねん」

『…、』



侑の表情が曇っていく度に首がギリギリと苦しくなる。名前の視界が少しずつ歪む。苦しさで生理的に涙が溜まる。



『ぁ、っ、』

「もう二度と俺の前に現れんな。不愉快や」

『っ、ごほっ、がっ、』



手を離され目ズルズルと地面に座り込んで咳を出す。名前が視線を上げると侑は無表情で名前を見下ろしていた。



『…な、んで、そん、なに、』

「…なんでそんなに私が嫌いなの?…か?」

『…っ、』




侑はふわりと笑って名前の目を見た。けれどその瞳があまりにも濁っていて名前は肩をビクリと揺らす。



「……俺は別に嫌いなわけやないで」




名前が何も言わず侑を見上げていると、顔の近くでガンッと大きな音がした。



『………は、』




名前が顔を向けると、すぐ横に侑の足が見えた。そして直ぐに侑が自分の顔のギリギリを蹴ったのだと気づく。それが分かった瞬間心臓がバクバクと脈を早める。



『はっ、…、っ、』



勝手に呼吸が浅くなる名前に侑は足を壁に付けたまま背中を丸めて名前に顔を寄せる。




「本当に嫌いやないで?………嫌いやなくて、」

『ぁ、…つむ、』






「殺したい程憎んどるだけや」





侑の瞳には憎しみが込められていて名前は目を見開く。侑の瞳には名前が映っていてポロポロと情けなく涙を流していた。






侑はゆっくりと足を退けると1度も振り返らずにその場を去っていった。








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