よんじゅうよん
「…別に、入れ替えとらん」
「なら今すぐお前が使っとるボトル持ってきたろか」
「やめろや!」
「まぁ、既に持っとるんやけど。はい、名前さん」
「はぁああぁ!?」
治は着ていたジャージのチャックを開けてお腹の辺りから空のペットボトルを取り出して名前に差し出した。手を伸ばそうとする侑の顔面を治が抑えている間にペットボトルを受け取ると、それは名前にとって見覚えのあるものだった。
『……これ私がメッセージ書いたペットボトル』
「それずっと使っとるんですよ。オカンに洗え言うて面倒いから嫌やって言われて自分で洗おうとるんですよ。きもいですよね」
「…………きもい言うなや」
侑は諦めたのか拗ねた様に身体ごと向きを変えて名前に背を向ける。
治が取り出したのは名前が春に侑に差し入れで渡したスポーツドリンクのペットボトルだった。ラベルには名前が侑にメッセージを書いて欲しいと言われ書いたものだった。
『……スポドリ買って、毎回これに入れ替えてたの?』
「………」
「ここでの無言は肯定やぞ」
「うっさいわ!…………名前から貰ろた物やから」
『……なにそれ、』
「あぁ!もう!!キモくて悪かったな!!」
侑は両手でガシガシと自分の頭を掻くと勢いのまま名前を見る。
『…………』
「………名前?」
『…………か、た、』
「え?なんや?」
名前の言葉が聞き取れず侑は名前の顔を覗き込む。
「……名前!?」
侑が顔を覗き込むと名前ははらはらと泣き始めていて、侑は慌てて名前に手を伸ばすがその手が名前に触れることは無く、驚いて顔を上げると名前を背中に隠す様に澤村・縁下・西谷・田中が立っていて侑は目を見開く。
「な、なんなん、」
「流石に
烏野のトレーナー泣かされたとあっては黙ってられないからな」
「大地さんの言う通りだぜ!見過ごせないぜ!」
侑は澤村達の後ろに隠れている名前を見る為に必死に顔を動かして覗き込むと名前は菅原・月島・山口に囲まれていた。
「おいゴラァ!メガネ!お前はあかん!!」
「えぇ〜?なんですか〜?泣かせておいてそんな事言える立場ですか〜?」
「苗字さん?大丈夫ですか?」
「こら〜。月島煽るような事言うな〜。これなら俺使ってないんで。タオル使ってください」
他のメンバーも流石に名前が泣かされたとあって侑を責めるようにジト目で睨む。けれど侑は気にならないのか必死に名前に近付こうと足を動かすが澤村・西谷の鉄壁に阻まれる。
「名前っ、」
『…かった、』
名前は菅原のタオルから顔を上げると、ふわりと笑った。
『………嫌われてなくて、良かった、』
その笑顔を見た瞬間、侑から表情が消えて名前に手を伸ばした瞬間に名前の貞操の危機を察した烏野と治は全員で侑の前に立ちはだかった。
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