さんじゅうきゅう
『…侑?』
「……おれが、」
侑は流れる涙を拭うこと無く、小さな声で言葉を続ける。
「おれがっ、全国にっ、」
『侑…?』
「名前をっ、全国にっ、」
『……』
侑の言葉に名前は目を見開く。
「なんでっ、俺の前から、
居なくなんねん、」
『……』
「俺の事応援する言うたのにっ、」
『………』
名前は息を吸い込み、名前の手を包んでいる侑の手をゆっくり握る。
『……』
名前の手は弾かれる事は無かった。けれど、握り返される事も無かった。
『………侑との約束を破った事、許してもらおうなんて思ってない』
「っ…、」
『ただでさえ試合もあんまり観に行けてなかったし』
「約束守れん奴はっ、大嫌いやっ、…お前なんかっ、大っ嫌いや、」
『ましてや自分から全国連れてって、なんて言っておいて他のチームと全国にいるなんて、最低だよね』
「っ、ほんまにっ、最悪やっ、最低やっ、」
『……信じてもらえないだろうけど、全国は観に来るつもりだった』
「っ…、」
『……侑と治の試合、観に来るつもりだったんだ』
「嘘つくなやっ、お前は絶対にこぉへんかった、」
『そう言われても仕方ないよね、何回も2人の試合行くって言って、何回もその約束破ってる』
「インハイやって来なかったっ、お前は嘘しか吐かんっ、」
『……うん、そうだね、…でも、それでも今日観客の中の1番近くで2人のプレーが見れて良かった、……これだけは本当。これで思い残すことは無くなった。……………だから、』
『だからもう、二度と、侑とは会わない』
名前は力の込められていない侑の手のひらをするりと離した。
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