さんじゅうさん
ユース合宿に呼ばれ、侑は最高潮に機嫌が良かった。勿論、レベルの高い場所でバレーが出来ることが1番の理由だが、自宅にいると治が名前と連絡を取っている事を自慢してくるのがストレスだったのだ。
「………あれは、」
合宿3日目の夜に風呂上がりの侑は首にタオルを掛けながら歩いていると電話をしている影山を見つけ、いじるネタを集める為に近づく。
「…はい、……自分から話す様に意識はしてます。……っす、」
もしかしたら彼女かと疑っていたが、話し方からしてそういうのでは無いと気付き肩を落とす。そのまま素通りしてしまおうと後ろを通りがかった時に聞こえてきた名前に足を止める。
「…苗字さんはもうちょっと運動した方がいいと思います。………なんでキレてるんですか?」
苗字なんて、よくある苗字だ。と頭では理解しながらも侑の足は動かない。そして侑は影山が何処の学校かを思い出した。
「……宮城、」
侑は小さく呟くと、ふっと息を吐き出し影山の後ろを通り過ぎる。
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「なぁ、飛雄くんて宮城やんな?」
「…はい、そうですけど」
「さっきな聞こえて来たんやけど、」
侑はスっと目を少し細めて口角を上げる。
「…苗字って、誰?」
「苗字さんですか?」
「そ。飛雄くんの友達?」
「いや苗字さんは友達じゃないです」
「同い年なん?」
「年上です。この間歳聞いたら怒られました。」
「飛雄くんの学校のコーチ?」
「コーチじゃないです」
「………もしかして下の名前って名前やったりする?」
「…………多分そんな感じだった気がします」
影山のあやふやな答えに侑はスっと表情を消す。影山はそれに気づいておらず、口を開く。
「宮さんは苗字さんの知り合いなんすか?」
「……なんで?」
「名前知ってたから」
「……そんなの勘や」
「へぇ、凄いっすね」
侑の嘘に影山は疑う事をせずに信じ、尊敬の声を上げる。
「……烏野、なァ」
侑の腸は煮えくり返っていた。額には青筋が浮かび、グッと手のひらを握りしめ、歯がギリっと音を立てる。
「………裏切りもんが」
小さく呟いた侑の声には憎悪以外の物が含まれている気がした。
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