にじゅうきゅう
『…侑?』
名前の声にも反応せず、俯いたままの侑が気になって、治と手を離して侑に触れようと手を伸ばす。
「……触んなや」
『……え、』
その手を侑はパシリと払い除け、顔を上げる。侑の表情は冷たく、まるで名前を蔑むかのような表情で、名前と治は驚いて目を丸める。
「何しとんねんお前…」
「…うっさいねん」
『あ、つむ?』
「馴れ馴れしく名前呼ぶなや」
『…ど、どうしたの?』
「どうしたもこうしたも無いやろ」
侑は名前に1歩近づき、冷たい表情のまま名前を見下ろす。その瞳はいつもの様な温かさも優しさも無くて、敵意しか感じられない瞳に名前は恐怖を感じた。
「…………裏切りもんが」
「ツム!!!」
治の責める様な呼びかけにもピクリとも反応せず、名前から視線を逸らさない侑に名前は堪らず視線を逸らす。
「お前なんてもう知らん。何処にだって行けばええやろ。約束のひとつも守れん奴に応援なんてされたないわ」
『…』
「どうせもうお前に教えて貰うことなんて無いしな」
「ツム!」
「俺の方がお前なんかより何倍も上手いわ。自分より下手な奴に教わりた無いし」
「ええ加減にせぇよ!」
治が侑の胸ぐらを掴むけれど、治の腕に名前が手を乗せる。それを見た侑は顔を歪ませる。
『…あとは?』
「……お前のそういう所がうざいねん」
『……』
「年上ぶって自分は大人やみたいな顔して」
『うん、』
「バレーは下手くそやし、いっつもちょろちょろして目障りやねん」
『…うん、』
「俺はバレーが下手くそな奴も約束守らん奴も大っ嫌いや」
『……うん、』
「…俺の視界から消えろや」
吐き捨てる様に言われ名前は小さく『…ごめん、』と呟くと侑はピクリと身体を揺らし視線を逸らす。
「……名前さん、」
治が名前を呼ぶと、振り返り何も言わずに笑う。その笑顔があまりにも痛々しくて治の顔が歪む。名前はそのまま公園を出て行くと治は侑の胸ぐらを掴み頬を殴る。侑は地面に倒れ込み、治は息を切らし侑を見下ろす。
「…………」
「…………頭冷やせや」
「…………うっさい」
いつもなら言い返すか殴り返すかの侑がただ黙って地面に座り込んだまま立ち上がろうとしない。そんな侑を置いて治は荷物を持ち上げ、公園から立ち去る。
「………絶対に、許さへん」
顔を上げた侑の目はギラギラとして、憎しみの籠った目が暗闇の中に浮かんでいて、侑の声だけが静かに響いた。
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