にじゅうはち
青茂っていた木々が所々枯れ始めた頃の話だった。
『…………』
名前がベンチに1人で空を仰いでいると、いつもの様に侑と治がやってきた。
「なにしとんねん」
『……』
「お〜い?シカトか〜?」
侑の問いかけにも反応しない名前に侑は眉を寄せる。珍しい反応に治も気になって名前の顔を覗き込む。
「…名前さん?」
『……ふたりにさ、話さないといけない事が、あるんだけど』
「なんやねん。あらたまって」
名前は背もたれから背を離すと、目の前にいるふたりの目をじっと見つめる。真剣な表情に侑と治も自然と表情が堅くなる。
『……仕事、辞めてきた』
「……………はぁ?」
侑が力が抜けたように眉を寄せて息を吐き出す。
「そんな事かい!驚かせんなや!」
「もっと真面目な話かと思いました」
2人がそう言っても名前の表情が崩れる事はなく、侑と治は眉を寄せて顔を顰める。
「……なんやねん。そんな、重たい話ちゃうやろ」
「…名前さん?」
『……先に謝る。……ごめん、』
「…なんで、謝んねん、」
「……謝るような事、あるんですか?」
少しずつ語気が強くなる2人に名前は淡々と言葉を続ける。
『…地元に、戻る』
「………………は、」
「……なに、言うとるん、ですか、」
『…仕事辞めたから、兵庫には、居れない。実家に帰る事にした、』
「……じっ、実家って、どこ、」
『宮城』
「み、やぎ、」
『今の会社に勤めてから、何回か体壊しててさ…。それでこの間も体壊して、医者からもう辞めた方が良いって、言われちゃって…、』
「…そんな、素振り、見せなかったやん、」
「俺らと、居る時は、普通で…、」
『まぁ、2人といる時が1番楽しくて仕事のこと忘れられたし、ストレス解消になってたしね』
「……」
「……」
名前にそう言われ2人はグッと唇を噛み締める。
『………だから、ごめん』
「な、んで、謝るんですか。別に、会えなくなる訳じゃないでしょう」
『うん…、でも、約束守れないかも、』
「…俺らの応援、来れないって、事ですか、」
『分からない…、地元に戻って、どうするか決めてなくて』
「……俺らの事、応援してくれないんですか、」
『それは違う』
治の言葉に、その日初めて名前がハッキリとした声で答える。
『それは違う。兵庫に居ても、宮城に戻っても…、何処にいても2人のことは応援してる。これだけは変わらない』
「……体調、大丈夫なんですか」
『…うん、とりあえず今は』
「……なら、ええです。」
治は涙を堪える様に眉を寄せてグッと唇を噛むと名前の手を包み込む。
「……ちゃんと、応援しとってくださいよ」
『…勿論』
名前も応えるようにぎゅっと治の手を握る。そのまま侑の方へと顔を向ける。
『…侑、頑張ってね』
その言葉で侑の中で何かがパリンと音を立てて崩れて行った。
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