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「と、いうわけで今日から手伝ってもらう苗字名前だ。生意気な奴だと思うが許してやってくれ」
今、目の前にいる真っ黒なジャージに身を包んだ高校生達に紹介された苗字名前は酷く憤慨していた。紹介のされ方もだが、何より休日に無理矢理起こされ、連れ出され、今こうして意味の分からない高校生達に囲まれてよろしく、と言われても意味がわからない。
「お願いしゃーす!!」
高校生達の大きな挨拶に眉を寄せると、烏養にバシりと後頭部を叩かれる。それを見た高校生達は酷く驚いた様に目を丸くしていた。
『…痛い』
「ほら、挨拶」
『え?挨拶しろって事で叩かれたの?繋心くんってDV?だから彼女出来ないの?』
「もう1発叩くぞ」
『……………苗字名前です、』
「そういう訳だから。何かあったら俺がこいつに聞け。よし、アップ始めろ」
「ランニング!」
烏養が指示を出すと、なんでもない様に体育館を走り始めた。それを見た名前は本当にコーチをやっているのだと気づいた。
『……』
「………」
特に話すことも無く、烏養との間に静寂が流れる。勿論、数年の付き合いではなく、何十年という付き合いの2人の為それが気まずいという事もなくただただ無心だ。
「あっ!初めまして!僕このバレー部の顧問をやらせてもらってます。武田です」
『……苗字です』
「烏養くんから話は聞いてます。よろしくお願いします」
『…いや、あの、私は、』
手伝いなどしない、そう伝えようと口を開いたけれど、それは部員たちの「集合!」という大きな声に消されてしまった。
「僕は会議があってあまり部活には顔出せないけど、練習頑張ってください!」
話が一通り終わると、またアップに戻ってストレッチを始めていた。その姿をボーッと眺めていると、男の人にしては少し高い声で名前を呼ばれる。
「苗字さんは烏野高校出身なんですか?」
『えぇ、まぁ、』
「卒業生なんですね!烏養くんとは、その…、」
『幼馴染です』
「なるほど!そうだったんですね」
そう言うと武田は人当たりのよさそうな笑みを浮かべた。可愛らしい姿を見て、この人は生徒に舐められたりしないのだろうか、と他人事の様に思った。
「烏養くんが頼りになる人を紹介してくれると言ってくれていたので」
『……武田先生』
「はい?」
名前はハッキリとした声で武田を呼ぶと真っ直ぐと彼を見て、強い口調で言った。
『正直に言ってください』
「なにを、ですか?」
『本当はなんて言ってました?』
「…え?」
『私を紹介すると言った時、頼りになる人、なんて言ってなかったですよね?』
「……その、えっと、」
『……』
武田は言いにくそうに口をもごつかせ、言った。
「足に使える良い奴が居るんだ…、と、」
言わずもがな苗字名前は憤怒した。
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