にじゅうろく


『進級おめでとう』

「あざっす」

「おん」




侑や治が稲荷崎に入学して1年が経った。2人は2年に進級し、バレー部でも必要不可欠な存在となった。




「どっかの誰かさんは全国の応援に来んかったからな〜」

『うっ…、』




侑の責めるような声と目線に名前はギクリと体を揺らし視線を泳がす。




『その…、仕事が…、立て込んでまして…』

「…………はぁあぁ〜、まぁええわ。今年も全国行くしな」

『こ、今年こそは行ける…、はず、』

「はずぅ〜?」

『行きたいと、思ってます…』

「ほんまかいな」



侑は溜息を吐き出すと片手を腰に当てる。



『で、でも、練習試合とかは観に行ってるし…』

「それも俺たちが強く言った時だけですけどね」

『ぐっ…、』



治はジト目で名前を睨むと名前は下唇を噛んで手で胸元をグッと掴む。



『そっ、そういえばっ、この間の練習試合の時凄かったね!』

「なにが?」

『2人の団扇持ってる子居たよ』

「どうでもええわ」

「きゃーきゃーうるさい」




侑は眉を寄せ、治はイラついた様に視線を逸らす。




『え〜!?めっちゃ可愛い子居たよ!?アイドルみたいじゃん』

「チヤホヤされるんは嫌いやないけど練習の邪魔されるんはムカつくねん」

「差し入れ貰えんのはええですけど」

『…………贅沢な悩みで羨ましいです〜』



名前が片方の口角を上げながら、半目で2人を見ると侑が名前に顔を寄せる。


「そういえば名前から差し入れ貰ろた事無いな」

「言われてみればせやな」

『仕事からダッシュで練習試合に向かっている私に差し入れを望むのは高望みですね〜』

「スポドリでもええねん。今度の練習試合の時は差し入れ持って来てや」

「俺は食いもんがええな」

『………』




名前が2人を睨んでも2人は気にした様子は無く、それぞれボールで練習を始めた。




*****




『…………この中に、混じるの?』




名前はスポーツドリンクとコンビニで買ったおにぎりを入れたバックを持ちながら立ち尽くしていた。



『……無理無理』





名前の視線の先には女の子達に囲まれた侑と治の姿があった。2人は名前に気付いておらず、試合中では無いからか笑顔で対応している様だった。




『……帰りの車で渡せばいいか』

「苗字さん?」

『…あ、北くん』




名前を呼ばれて振り返ると北が立っていた。北に近寄ると律儀に会釈をされ、名前も少し頭を下げる。



『お疲れ様』

「ありがとうございます」

『双子の人気は凄いね』

「そうですね」



北は慣れているのか表情を崩すこと無く頷く。



『あ、そうだ。これ差し入れ』

「……俺にですか?」

『うん。流石に部員全員には無理だから知り合い分しか無いんだけど…』

「…ありがとう、ございます」




北にスポーツドリンクを差し出すと、少ししてから受け取る。


『そういえば北くんは…、』

「…信介でええですよ」

『え?』

「侑と治は名前で呼んでますよね?」

『うん、まぁ…』

「俺も信介って呼んでください」

『……じゃあそう呼ばせてもらうね』




名前が笑うと北も優しく微笑んだ。




「名前!」

『…あれ?侑?』




少し場所を移動して北と世間話をしていると名前を呼ばれ振り返ると息を切らした侑が立っていた。



『なんで走って来たの?』

「名前が居らんから」

『心配しなくても帰りは送ってあげるよ』

「ちゃうわ!」

『ていうかこっち来ちゃって平気なの?ファンの子は?』

「知らん」

『知らんて…』

「ん、」



侑は手を差し出し、名前は意図が分からずバックを持っていない方の手を侑の手のひらの上に乗せる。




「ちゃうわ!…いや、まぁ、ええけど、」




侑はそのまま名前の手を握り、手を下ろすと逆の手を差し出した。


「差し入れ」

『あぁ、差し入れか』



名前が持っていたバックを侑に渡す。



「…重さ的にスポドリか」

『だってスポドリで良いって言うから』

「名前からの差し入れなら何でもええわ」



そう言って侑は笑うと、名前は侑に向かって口を開く。



『中にあるおにぎりは治に渡してあげて』

「…サムの要らんやろ。俺が食う」

『ダメだよ。ちゃんと治に渡して』

「……ちぇっ、」




侑は視線を逸らすと、思い出した様にまた名前に視線を戻す。



「せや。何かメッセージ書いてや」

『えぇ〜…』

「一言でええから」




侑は手を離し、羽織っていたジャージから油性ペンを取り出す。


『…なんで持ってるの』

「名前が差し入れ忘れとったら自販機で買って貰て書けって言うつもりやったから」

『……私の信用無さすぎ』




名前は諦めてバックからスポーツドリンクを取り出し、油性ペンのキャップを外す。




「あ、ちゃんと侑へって書いてな」

『…言っとくけど、字は綺麗じゃないからね』

「ええよ別に」




名前は出来るだけ丁寧にペットボトルに文字を書き込むと侑は嬉しそうにそれを受け取り空に掲げた。



「…大切にするわ!」

『いや、飲んだら捨てて』

「嫌や!!」

『ペットボトルなのに!?』




侑は守る様にスポーツドリンクを胸に抱え込むと名前をジト目で見た。



「名前には俺の繊細な気持ちは理解出来へん」

『酷い言われよう』

「そろそろ試合始まるわ。侑、戻るで」



北がそう言うと侑は、はーいと返事して名前に背を向けて歩き出した。


「あと2試合あんねん。観てくやろ?」

『うん』

「ほな行こ」



侑の隣に移動して一緒に歩き出す。




『ちゃんとそれ、治に渡してね』

「ちっ…、覚えとったか」

『当たり前でしょ』

「しゃーないわ」




侑はそう言うと、名前の手を取り握ると少し腕を前後に揺らす。


「これで我慢したるわ」

『なんで侑が上から目線?』



名前が首を傾げると、侑は上機嫌に腕をまた揺らす。




「めちゃくちゃいいトス上げられる気がするわ」

『それはいつもでしょ?』

「いつも以上って事や」

『ふ〜ん?』




その日の侑は絶好調だったらしい。



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