にじゅうご


「つまり、週に1度侑と治にバレーを教えとるって事ですか?」

『うん、そうだね』



名前がそう答えると北は少し考える様に指を顎に当てた。名前はそんな北に声をかける。




『えっと、北くん?だっけ?君は集合なのに行かなくていいの?』

「俺はレギュラーじゃないので」

『そうなんだ…、』

「………苗字さんにお願いがあるんですけど」

『なに?』




北は既に真っ直ぐだった背筋をスっと伸ばし、名前を見る。そんな北の姿に名前も自然と背筋が伸びる。



「俺にもバレーを教えて貰えませんか?」

『……………え?』





*******





『というわけで、北くんも参加することになりました』

「………」

「………」



2人はモゴモゴと口を動かしながらも北相手では何も言えないのか何も言わなかった。


『今日は私の奢りだから好きに食べていいよ』

「いや、俺は…」

『ちゃんとお金下ろしたから』

「家に飯あるんで」

『あ、そうなんだ…ごめんね、無理矢理連れて来ちゃったね』

「いえ、俺が言わなかったので」




4人でファミレスに来たが、北は名前が開いたメニューを少し見ると目を輝かせた。



「…豆腐ハンバーグ」

『え?……あぁ』



名前がメニューに目を向けると大々的に表示されている豆腐ハンバーグのメニューが載っていた。



『好きなの?豆腐ハンバーグ』


名前の質問に北はコクリと頷くと、名前は少し笑いひとつの提案を出す。


『私が豆腐ハンバーグ頼むから少し食べる?』

「ええんですか?」

『うん。少しならそんなにお腹に溜まらないでしょ?』

「ありがとうございます」

『侑と治は?何にする?』

「俺はこれとこれで」

「……」

『侑は?』



侑はメニューを見てはおらず、じっと名前を睨んでいた。名前が首を傾げると侑は口を開いた。


「…北さんと仲ええやん」

『……?』

「……?」



名前と北は顔を合わせて首を傾げると、それを見た侑が小さく舌打ちをした。



「…飯の交換まで約束して」

『だって豆腐ハンバーグ…』

「……」



侑はイラついた様にメニューに目を逸らすと、名前もメニューに視線を落とした。するととあるメニューがあって侑に声をかける



『侑、ねぎトロ丼あるよ』

「……」

『でもねぎトロ丼じゃ量が少ないか…』

「……ねぎトロ丼と、肉」

『あ、そのお肉私も食べたい』



侑の指したメニューに名前が反応すると、侑の手がピクリと揺れた。



『豆腐ハンバーグ少し分けてあげるからお肉分けて〜』

「……しゃーないな」

「……単純」

「……」

「…っ、」



少し嬉しそうに微笑む侑に隣に居た治が小さく言葉を零すと机の下で侑が治の足を踏み、治が侑の足を踏み返した事で机がガタガタと揺れる。



「…侑、治」



北に名前を呼ばれ、すぐさま足の踏み合いを止めピシリと背筋を伸ばす。そんな北の姿に名前は少し恐怖を抱いた。



****



「俺まで奢てもろてすみませんでした」

『いやいや、元々そのつもりだったから。むしろ付き合わせてごめんね。晩ご飯に間に合いそう?』

「はい、大丈夫です。失礼します」

『はーい、またね』




ファミレスで食事を終え、3人を乗せて車で順番に送って行く。北を自宅まで届け、侑と治を送る為にアクセルを踏み込む。



『……治、もうすぐ家着くから寝ないで』

「…おん、」



半分寝ているかの様な声に名前は眉を寄せる。すると助手席に座っている侑が外を眺めたまま口を開く。



「…なぁ」

『なに?』

「…まだ写真撮ってないんやけど」

『あ〜、そういえばそうだったね』

「インハイの時は仕事や言うて来れなかったやろ」

『その節はすみません』

「…まぁその時はまだレギュラーやなかったけど」

『次の大会は春高か〜。1年でレギュラーになれただけでも上々だよ』

「俺はもっと上に行く」

『……応援してるよ』



私がそう言うと侑はフッフと笑うと続けて口を開く。



「名前を全国に連れくって約束もしたしな」

『懐かしい』



名前が笑うと侑は眉を寄せた。



「…本気で言うとるんやけど」

『分かってるよ。私だって本気だよ』



赤信号で止まり、侑の方へと顔を向ける。



『侑が私を全国に連れて行ってくれるって信じてるよ』

「…名前」



街灯に照らされる名前の笑顔に侑は手を伸ばす。侑の手が名前の頬に触れそうになった時、後ろから治がぬっと顔を出す。



「侑だけやなくて、俺たちやろ」

『そうだね、侑と治と稲荷崎のみんなだね』




名前が笑い頷くと信号が変わり、アクセルをゆっくりと踏み込む。すると治が侑に顔を寄せ小さな声で言葉を発する。



「…残念やったな」

「……明日のサーブ練、後頭部に気をつけた方がええで」




侑は治を睨んだが、治は鼻で笑い後部座席のシートに背中を預けた。





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