にじゅうよん


冬が近づき、ベンチに座りながら温かいお茶を飲み侑と治を待っていると、神妙な顔をした2人が現れて名前は首を傾げた。


『真剣な顔してどうしたの?』

「…明日仕事か?」

『…仕事だけど、午後は休み、』

「なら明日の14時に試合見に来てください」

『…なんで?』



侑や治から部活の雰囲気は聞いていた。試合にも時々出ている事も勿論聞いていた。その度に試合に観に来て欲しいと何度も言われた。その度、仕事のせいで観に行けていなかったけれどこんな風に真剣な表情で言われたのは初めてだった。



『……分かった。仕事終わったら直ぐに観に行くよ』



そう言うと2人は固まっていた表情を少しだけ安心した様に緩んだ。



******




『間にっ、はっ、あった、』




ブラック企業の午前帰りは基本的に帰れるのは正午では無く、数時間後だ。名前は必死に仕事を終わらせ、ダッシュで会社を出て稲荷崎を目指し、着いた瞬間に車を停めてダッシュで体育館へと入り階段を駆け上がりギャラリーから下を見下ろす。



『居た…、』



目立つ髪色の2人を見付けるとキョロキョロしていた侑と治が名前を見つけ、安心した様に笑った。名前が小さく手を振ると侑と治はグッと握った拳を名前に向かって突き上げた。


『…?』


名前は意味が分からず首を傾げると2人は視線を逸らしコートを見た。練習試合だけれどユニフォームを着ていてまるで本当の試合のようだった。



『…………は、』



審判がコートに入る様に合図をすると、侑と治がコートへと足を進め、背番号が見える様に審判に背を向ける。それは、つまり…、




『……スタメン?………もしかして、』




名前はギャラリーの手摺を掴み、体が前のめりになる。試合が始まりホイッスルが響く。侑と治は落ち着いた様に試合を進めていく。



『……凄い、』




高校1年生とは思えない落ち着きと技術で稲荷崎は快勝し、メンバーが代わり第2試合が行われる。名前はギャラリーの階段を降りて近くにある自動販売機でお茶を購入し、取り出す。




「どやった?」

『……侑』




声がして振り返ると片手を腰に当てた侑とその隣に治が居た。



『………驚いた』

「せやろなぁ。凄い顔しとったもんな」

『………』

「……………はぁ!?何泣いとんねん!」

『……え?』




名前は自分が涙を流している事に気付いておらず、慌てて手のひらで涙を拭う。侑は両手を動かし慌て、治は目を見開き固まっていた。



『な、んか、感極まった…、』

「…これ、まだ使ってないんで」

『ありがとう、』



治にタオルを差し出され、それを受け取り涙を拭き取る。その間も2人は何処がギクシャクしていて硬い表情をしていた。



『ふたりとも、凄いね、』

「あ、当たり前やん、」



いつもの様なキレがない侑の返しに名前は笑うと、侑は顔を顰めた。名前はタオルを手首に掛けて両手を2人に伸ばす。すると2人は名前の手を優しく包む。



『……おめでとう、』

「…あざっす」

「…おん」




名前がキュッと2人の手を握ると、応えるように少しだけ力を込める。


『ユニフォーム、凄く似合ってる』

「知っとるわ」




調子を取り戻しつつある侑は笑いながらそう言うと、強弱をつけて名前手を握る。



「せや、名前」

『ん?』

「俺ユニフォーム着とるやん」

『え?…うん、そうだね?』

「ならする事があるやろ?」

『…………?』

「スマホ」




侑に言われるままスマホを差し出すと、カメラを起動させ肩を抱き寄せられる。



「何2人で撮ろうとしとんねん」

「ならサムが撮ってや。全身写してな」

「全身写したら俺が映らへんやろ」

「おん」

「おん、ちゃうわ」



治はスマホを受け取り内側のカメラにして体を寄せる。


「狭いねん!サム出てけや!」

「名前さん、もっとこっち寄っていいですよ」

『ありがとう』

「おい!!」



そんな会話をしながら写真を撮って居ると、声をかけられる。



「侑、治集合や」





北が体育館の扉に手をかけてそう呼びかけると、侑と治はビクリと体を揺らしギギギと壊れたブリキのオモチャの様に振り返る。



「き、北さん…、」

「す、すぐ、戻ります」



北は侑と治から視線を逸らし、名前をじっと見ると少ししてスっと視線を逸らす。



「終わりまで居るやろ?」

『いや、もう帰るつもりだけど…』

「まだ写真撮ってないやろ!」

「飯も奢ってもろてないです」

『…治は私をなんだと思ってるの?』



名前は眉を寄せ息を吐き出すと、2人の背中をバシリと叩き背中を押す。



『終わるまで待ってるから行ってきなよ』



2人が体育館へと入って行く姿を見送ると、北が名前に声をかける。


「2人の家族ですか?」

『いや、違くて…、えっと、……と、友達?』



名前が首を傾げながらそう答えると北も同じ様に無表情のまま首を傾げた。


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