にじゅうに
「どうや!?似合うやろ!」
『お〜、似合う似合う』
「スマホ見とるやん!!」
桜が花を開き、花粉が辛い時期の数ヶ月続けられている公園での練習に侑と治が初めて制服で現れた。いつものジャージとは違い、稲荷崎の制服に身を包んだ2人に名前は興味が無いのかスマホから目を離すことは無かった。
『…まだ入学式じゃないはずだけど?』
「名前に1番に見せたろ思て着てやったわ!」
『1番に見たのは治だろね』
「…まぁ、そうですね」
『2人とも無駄に顔が良いから良く似合ってるよ』
「褒められた感じがせぇへん!」
名前は面倒臭そうに顔を顰めると、治に助けを求める視線を送る。
「俺も褒めて下さい」
『治、お前もか』
名前は持っていたスマホを目の前に掲げ、カメラを起動させる。
『はい、チーズ』
そう言うと流石の反応か、2人はカメラに目線を送りそれぞれポーズをとる。カシャリと機械音が響き内容を確認する。すると2人も名前に近づき、覗き込む。
『顔が良くて写りも良いってなに?スペック高すぎない?ウザッ』
「ウザイ言うな」
侑が弱い力で名前の頭を叩く。すると治もスマホを取り出し名前に肩を寄せる。
「名前さん、チーズ」
『え?』
「っ、おい!」
突然の掛け声に顔を上げた瞬間に先程と同じ機械音が響き、名前は顔を顰める。治は名前にも見えるようにスマホを降ろして撮った写真を開く。
『…君たちと違って顔が整ってないんだからちゃんと撮りますよ〜って言ってからじゃないと困るんだけど?……ほら、変な顔してる』
「元からこんな顔です」
『…最近は治も生意気だな』
「何普通に会話しとんねん!俺写ってないやんけ!」
「いらんからな」
「なんやと!?」
言い合いを始める2人を他所に名前はさっき撮った写真を開いて、ロック画面に設定する。
『…なんか、弟が出来たみたいで嬉しい』
「俺を待ち受けにするなら肉まん奢って下さい」
『がめつい奴…』
「…なんで弟やねん」
『というか、制服見せる為に休日の昼に私を呼び出したの?』
「ついでに入学祝いって事で昼飯奢ってもらお思て」
『治くんは遠慮って言葉を知らないのかな〜?』
「弟なんでしょう?」
『…クソガキ』
治は1人で完結させたのか荷物を持ち上げて、出口に向かって歩き出した。そんな姿を見て名前は溜息を吐きながら今持っている金額を頭の中で整理する。すると不意に侑に名前を呼ばれる。
「…名前」
『…なに?言っとくけど食べ放題だからね』
名前が顔を顰めて振り返ると、手首を引かれて侑の肩を抱かれる。
「…」
『………撮るなら撮るって言って』
侑は何も言わずにスマホを両手で握って写真を確認する。
「………待ち受けにしてもええ?」
『あかん』
「………………なんで」
『突然だったから変な顔してるし、そんな画面見られたら侑が恥ずかしい思いするだけだよ』
「恥ずかしないわ。自分は俺ら待ち受けにしたやん」
『それは被写体がとびきり良いから。ほら、焼肉奢ってあげるから。それで許して』
「……………」
侑は拗ねた様に唇を尖らせながら荷物を持ち上げて名前に並ぶ。
「……」
『そんなに拗ねないでよ。高校で出来た友達にそんな待ち受け見られたら引かれるよ?』
「…周りは関係無いやろ」
『なんでそんなにその写真を待ち受けにしたい訳?そんなに自分の写りが良かったの?大丈夫だよ。侑はいつだってイケメンだから』
「……そういう事とちゃうわ。…アホ」
「名前さん、はよ車開けてください」
『はいはい、食べ放題の焼肉で手を打ってね』
「焼肉…!」
名前の言葉に治はヨダレを垂らし、じゅるりと音を鳴らし、それを手のひらでグイッと拭っていた。
『ジャージ持ってきた?』
「は?なんでジャージ?」
『焼肉食べるんだからジャージに着替えて車に制服置いて行きなよ。入学式で制服から焼肉の匂いがするなんて嫌でしょ?』
「……せやな。腹減ってまうな」
『………治はそのまま育って欲しいわ』
治は車に乗り込むや直ぐにジャージに着替え始めた。
『侑も着替えてね』
「…おん」
未だに拗ねている侑に名前は苦笑を浮かべて肩をすくめる。
『…なら次はユニフォーム着てる所見せてよ』
「……なんで」
『それで写真撮ろう。その時はちゃんとお洒落して行くから』
「……絶対やからな」
『うん、約束』
「…ん、」
侑は静かに小指を出すと、名前も少し笑って指を絡ませる。すると侑は一気に表情を変えてジャージに着替え始めた。
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