にじゅう
あれから2週間が経った。けれど侑が公園に現れることは無かった。週に1度の為回数にすると2度来なかっただけだが、名前はそれが引っかかっていた。
『侑は元気?』
「機嫌は悪いですね」
『…やっぱり私のせいかな』
「強いて言うなら俺ですね」
侑が現れない2週間の間、治が公園に現れ一緒に練習をしていた。
『怪我とかしてないなら良いんだけど…』
「それは大丈夫です。それに…」
治はボールを両手でキャッチすると公園の入口に顔向ける。
「……もう限界みたいやし」
『……限界?』
入口から視線を逸らさない治が気になって名前も治の視線を辿り視線を向けると、入口にある大きな木の後ろからこちらを覗く影が1つあった。
『……侑?』
こっちに来る気は無いのか視線が合っても動きは無く、じーっとこちらを見続けていた。その目が名前を責める様な目をしていて名前は苦笑を浮かべる。
「ほっといてええですよ」
『…い、いいの?』
「どうせ引っ込みがつかなくなっててどう接したらええのか分からなくなってるんです」
『…確かに侑は頑固だからね』
「…………謝るんですか。名前さんは悪くないでしょ」
歩き出した名前に治は眉を寄せて首を傾げると、名前は振り返ってニヤリと笑った。
『ほら私、大人だから』
治はふっと笑うと名前に背を向けて壁にボールを打ち付けた。
『……侑』
「…なんやねん」
『練習しないの?』
「……サムと随分楽しそうにしとるやん」
『え?』
木の幹を掴んでいた両手を離して真っ直ぐに姿勢を直すと侑は視線を逸らして唇を尖らせる。その姿を見て、名前にはひとつの考えが浮かび上がる。
『……なに、やきもち?』
「…………………は、」
名前の言葉に侑はポカンとすると、言葉の意味を理解したのか一気に顔に熱が集まり耳まで真っ赤にしていた。
「は、はぁああぁぁあっ!?ちゃ、ちゃうし!?何言うとんねん!うっ、自惚れ過ぎやろ!」
『…そんな真っ赤な顔で否定しても意味無いと思うけど』
「ちゃうわ!勘違いすんな!ダボ!」
『あ〜はいはい。あちゅむは可愛いでちゅね〜』
「やっ、止めろや!撫でんな!ガキ扱いすんなや!」
侑の頭をわしゃわしゃと犬を撫でるように両手で撫でる名前を口ではそう言うが、本気で止める気は無いのか抵抗もせず、侑の両手はだらりと下がっていた。
『侑くんはお姉ちゃんが取られて悔しかったんでちゅね〜 』
「誰が姉やねん!」
『侑も可愛いところあるんじゃ〜ん!』
「っ、」
名前が嬉しそうにそう言うと侑は開いていた口を開く事が出来なくなり、恥ずかしそうに悔しそうに唇を噛むことしか出来なかった。
「しゃ、しゃーないから、来週からも、ちゃんと来たるわ…」
最後の抵抗で小さくそう呟くと名前は侑の頭から手を離して笑って口を開く。
『うん、侑が居ないと寂しいよ』
「………それって、」
「なんかボールが上手く馴染まんのやけど」
侑が口を開こうとした瞬間、治が狙ったかの様に名前の後ろから現れてアドバイスを乞う。
「〜〜〜っ!!サム!!」
「なんやねん、うっさいわ」
「元を辿ればお前のせいや!」
「はぁ?」
「お前のせいで1週間無駄にしたやん!」
「勝手にキレて来なかっただけやろ。心配しなくても俺が居ったから大丈夫や」
「それの何処が大丈夫やねん!!」
「そんな事言うて先週も覗き見しとったんやろ。俺が帰った時にオカンがツムも少し前に帰って来た言うとったで」
「ちゃ、ちゃうわ!あの、あれや、本屋行っとったんや!」
「なんのために」
「…………さ、参考書」
「…………」
「なんやその可哀想な物を見るような目ェは!?」
「名前さん、アンダーなんですけど」
「無視すんなや!つーか何名前で呼んでんねん!」
『はいはい、夜だからもう少し静かに』
侑が戻って来て、治が増えて週に1度の練習が酷く騒がしくなった。
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