じゅうきゅう
名前と侑が週に1度集まり練習をする事になってから何ヶ月も経ったある日の事だった。
トスを上げている間に名前が掲げている指の本数を当てるという意味があるのか無いのか分からない練習をしている時の事だった。
『はい、何本』
「っ、2!」
『残念〜、4本でした〜』
「嘘つくなや!2本やったやろが!今変えたやろ!」
『言いがかりは良くないな〜?自分が間違えたからって〜』
「〜っ!腹立つ!」
ニヤニヤと笑っている名前に侑が地団駄を踏んでいると、侑にとって聞きなれた声が耳を揺らした。
「…こんな所に居った」
「は?………サム!?」
『さむ?』
声のした方へと顔を向けると、侑とそっくりな男の子が立っていて、名前は直ぐに以前言っていた双子の片割れだと気付く。
「帰りがめっちゃ遅い日が必ず週に1度あった。必ず同じ曜日で、同じ時間に帰って来る」
「…つけとったんかい」
「おん」
名前は蚊帳の外の様な扱いにそっと存在を消し去る様に一歩ずつ静かに後ろに下がって行く。
「それで?誰やねん、こいつ」
「…こいつ言うな。それにサムには関係無いやろ」
「………」
二人の間に流れる不穏な空気に面倒臭くなる予感をいち早く察知した名前はそーっと荷物を手に取り、泥棒の様に背中を丸めて歩き出す。
「…何帰ろうとしとん」
侑に腕を捕まれ、逃走が失敗に終わる。名前がゆっくりと振り返ると、無表情で侑が見下ろしていた。
『か、顔が怖いよ〜?どうした〜?』
「どうしたこうしたも無いわ。何帰ろうとしとん」
『だって、ほら、兄弟水入らずでしょ?邪魔しちゃ悪いと思って…』
名前はえへへ、と笑ったけれど侑の表情は崩れる事無く、無表情のままだった。
『と、とりあえず、今日は帰る?』
「………」
「ここで練習しとったんか」
「……」
「…………分かった」
侑は答える気が無いのか無言を貫くと、治は少し頷き鞄を地面に下ろした。
「俺もこれからここで練習するわ」
「……………はぁあ!?」
『え、』
突然の治の発言に無言を貫いていた侑も声を荒らげ、治に詰寄る。名前は目を見開き、治の顔をじっと見つめる事しか出来なかった。
「なんでそうなんねん!」
「ツムだけずるいやん」
「ならっ、学校の体育館で自主練したらええやろ!」
「体育館は時間が決まっとる」
「っ、ならっ、別の場所で練習しろや!」
「なんでここで練習したらあかんねん」
「ここはっ、俺がっ、練習しとん!」
「公園なんやから自由やろ」
「〜っ、」
「良いですよね?」
『えっと…、』
治の問に名前が視線をキョロキョロと泳がせていると、侑が唇を噛み締め眉を寄せる。
『私は、週に1度なら、別に、良いけど…、』
「っ…!」
名前が肯定すると侑はバッと顔を上げて、名前を睨む。なぜ睨まれたのか分からない名前はビクリと体を揺らす。
「〜っ、」
侑は両手をグッと握り締め、口を開く
「なんでやねん!!」
『…え?』
「俺と練習するって約束やったやろ!」
『だっ、だから、3人でやれば、』
「〜〜っ!!」
名前の言っている事は尤もで、3人になれば出来る練習も増える。侑もそれが分かっているから余計に腹が立った。侑にとっては週に1度の逢瀬でも名前にとってはただの練習だということも。
「もう知らんわ!!名前のダボ!!」
『…え?』
侑はそう言うと荷物を持ち上げ、ダッシュで公園から出て行ってしまった。その姿を呆然と眺めていると、不意に声をかけられる。
「…俺のせいなんで、言うのあれなんですけど、気にしなくてええですよ」
『えっと、』
「ツムの双子の治です」
『あ、うん。話は聞いてる…』
「どうせ少ししたらケロッとしてます」
『…なら、良いんだけど、』
侑が去って行った道を見ても、既に侑の姿は見えなくなっていた
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