じゅうはち
「なんか最近機嫌ええな」
「別に普通や」
「ふ〜ん…」
治と学校に向かっている間にそう言われ侑は機嫌が良くなるような覚えが無く、素直に答えると治は何処か納得が出来ていないように相槌を打つ。
「それにずっとボール触っとるな。授業中は足で、休み時間は腕で。なんや?ボールと融合したいんか?」
「どういう事やねん…。ボールと友達になんねん」
「…………は?」
侑は名前から以前言われた言葉を思い出した。
『上手くなりたいならずっとボール触ってれば?』
「部活の時触っとる」
『それ以外でも。どんな時でもだよ。ボールと友達になりな』
「はぁ?」
『自分の体の一部みたいにボールを操れる様になれば飛躍的に上手くなるよ。…例えばこんな風に』
そう言って名前はボールを低めに優しく投げて、手首の上に乗せる。腕を左右に揺らしてボールが落ちないようにコントロールをしていた。
『簡単そうに見えて意外と難しいんだよ?』
「そのくらい俺にも出来るわ」
そう言った侑にボールを渡すと、名前と同じ様にボールを投げて手首に乗せる。
「…ちっ、」
『わ〜、下手くそ〜』
「うっさいわ!」
ボールは侑の手首の上で少し跳ねて地面に転がった。それを見て名前は煽るように声をかける。
「すぐできるようになるし…!」
『ん〜…、あとはセッターならトスかな…』
名前はボールを受け取り床に寝そべる。勿論地面は土で、侑は慌てて声をかける。
「何しとんねん!」
『寝て真上にトスを上げる』
「そんなん俺かてやっとるわ」
『だろうけど、意識の話だよ。特に肘』
「…ひじ?」
『トスをあげる時に肘をあんまり動かさない事。これを意識して練習してみて』
「…動かさない」
名前の肘を見て、焼き付ける様に眺めて言葉を繰り返す。名前は立ち上がってボールを侑へと返した。
『ボールと話せる様になったら教えてね〜』
「〜っ!馬鹿にしとるやろ!!」
大声で吠える侑の姿に名前は口を大きく開き大笑いをした。
*****
「なぁ、サム…」
「なんや」
「どうやったらボールと話せる様になるんやろ」
「……………」
「その汚物を見るような目で見んなや」
「…最近、帰って来んの遅い日あるよな」
「まぁな」
「どこ行っとんねん」
「何処でもええやろ」
「…まぁ、せやな」
ボールから目を逸らさず答える侑を治はじっと見つめていた。
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