いち


名前が眠っているとけたたましい電子音に起こされ、目覚ましが鳴ったのかとスマホの画面を適当にバシバシと叩くが音は鳴り止まず、部屋に鳴り響いている。イラつきは高まりスマホを叩く手も強くなり、そのせいでベットが少しずつ弾む。すると不意に音が鳴り止み、懐かしい声が聞こえた。




「おっ、やっと出やがったな」

『…………おかけになった、』

「全国行きが決まった」

『…………………旅行?』

「烏野男子バレー部が全国に行ったんだよ」

『………だから?』

「だから力を貸して欲しい」

『…………繋心くんそんなに烏野応援してたの?初知りなんだけど』

「あれ?言ってなかったか?俺今コーチやってんだよ」

『…………』




彼が、ーーー電話の相手である、烏養繋心が何を言っているのかが名前には分からなかった。烏養繋心という男は人に物を教えるような男だっただろうか。ーー否、彼はそんな男ではない。ならば何故、わざわざ可愛くない高校生に、それも男にバレーを教えていると言うのだろうか。



『……脅されたんだね』

「はぁ?」

『お姉さんに言ってごらん。その相手、ぶちのめしてあげるから…………社会的に』

「怖ェよ!!しかもお前は年下だ!!」

『んで?旅行どこ行きたいって話だっけ?私は北海道とか行きたいなぁ』

「違ぇよ。烏野バレー部が全国に行くから手を貸せって話だ」

『嫌だよ』

「それじゃ、1時間後に迎え行くわ」

『あれ?私が居るのってブラジルだっけ?だからこんなに話が通じないの?』

「ジャージ着て待ってろよ」

『おーい!!烏養さ〜ん!?聞こえてますか〜!?』



真っ暗なスマホに呼びかけても返事は無く、名前は苛立ちからスマホを投げようと振りかぶるが、高級機器だと思い出し何とか思い止まる。そして小さく舌打ちをして、布団に潜り込んだ。





けれどきっちり1時間後、烏養が現れて名前は引きずられて行った。






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