じゅうなな
『私、ブラック企業で働いてる社畜なんだけど…』
「帰りが遅い言うから俺が合わせてるんやろが」
『私は頼んでないんだけど…?』
名前と侑は公園で対面でレシーブ練習をしていた。名前はわざわざジャージに着替えた様子でリズム良く侑に向かってボールを打つ。
「やって、仕事が、終わらんっ、言うから、この時間にっ、したんやろ、」
『ていうか、これ、意味ある?セッターの、練習、できない、じゃん、』
名前がそう言ってバシリと音を立て侑にボールを打つと、侑は1度アンダーでボールを真上に上げてキャッチする。
「セッターの練習は部活でやっとる」
『本当に今の時間はなんなの?』
名前は首を傾げると、侑はボールをバックにしまうとベンチに腰を下ろした。
『え?休憩?帰っていい?』
「ええわけないやろ」
帰ろうとする名前を引き止め、自分の隣をバシバシと叩き、座る様に促す。名前は溜息を吐いてゆっくりと腰を下ろす。
『なに?もう夜なんだから帰ろうよ』
「そういえば名前聞いてへん」
『え〜?今更?もうババアでいいよ。実際中学生から見たらおばさんだろうし』
「あかん」
『……苗字』
「下の名前は?」
『……花子』
「嘘つけ!」
『そっちこそ名前言ってないじゃん』
「宮侑」
『なんかコンパクトだね』
「なんやと!?」
『あはは〜』
「俺は言うたんやから言えや」
『…なんでそんなに知りたいわけ?』
「名前知らんと不便やろ」
『苗字お姉様とお呼びなさい』
「下の名前」
引く気のない侑に名前は顔を顰めて小さく呟く。
『…名前、苗字名前』
「……名前」
『呼び捨てかよ……』
名前の嘆きは侑には聞こえていなくて、侑は小さく名前を繰り返していた。
「…明日もここ来れるん?」
『え〜…、疲れたから嫌だ』
「ちっとボール触っただけやん!」
『数年動いてない人間にとってのちょっとと部活で動き続けてる中学生のちょっとを一緒にしないでくださ〜い』
「…………運動してないんやろ」
『うん』
「……………………太るで」
『私は社会という名の歯車をハムスターの様にカラカラと回り続けてるから大丈夫』
「それ運動ちゃうやん…」
侑がジト目で名前を見ると、名前は侑の頭を撫でる。侑は突然の行動に身体が固まり顔に熱が集まる。
『明日も学校でしょ?それに部活もある。送るから帰りなさい』
「…………ガキ扱いすんなや」
『中坊なんてガキでしょ?ほら行くよ』
背を向けて歩き出した名前に慌てて荷物を拾い、侑は追いかける。
「次はいつ来れるん?」
『この練習意味無いって』
「じゃあ練習やなくてもええわ」
『は〜?』
突然の侑の言葉に名前が眉を寄せて立ち止まると、数歩先を行く侑も立ち止まり振り返る。街灯に照らされて侑の顔が良く見えた。
「ただ話したいねん」
『なんで?』
「知る為に」
『なにを?』
「………名前を、」
『どうして?』
「……よう分からん」
『それ私のセリフなんだけど?』
名前が首を傾げると侑は唇を尖らせ、眉を寄せる。その姿を見て名前は肩をすぼませ呆れたように息を吐く。
『1週間に1回なら練習に付き合ってあげる』
「…1回」
『私だって暇じゃないの。それが限界』
「………分かった」
口ではそう言いながら納得していなさそうな顔をしている侑の肩を1度叩いて歩き出した。
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