じゅうろく


『それで?その顔の傷はなに?いじめ?』

「なんでやねん」

『頬にガーゼなんて漫画の世界だけかと思ってた』

「………別に、ちょっと喧嘩しただけや」

『喧嘩はちょっとでは無いよね』



ベンチに背もたれにダラーと名前が座っていると、隣にストンと腰を下ろした侑が小さく呟く。



「…俺も、セッターやねん」

『へぇ〜』

「……そんで今日めっちゃ調子良かった」

『良かったじゃん』

「…けど、負けた」

『まぁ、そんな日もあるよね』



名前が適当に返していても侑は特に何も言わなかった。ただ話を聞いて欲しいだけなのだろうと名前は結論付けてまた空を仰ぐ。



「俺チームメイトに嫌われとんねんて」

『だろうね』

「はぁ…?」

『だって生意気じゃん』

「………」

『それで部活に居にくいって?』

「…別に。嫌われてる事には何とも思わへん。ただ…」

『……』

「俺は調子が良くてブロックもよく見えてた。なのに点を取られへん事に腹が立つ」

『………』



顔を顰めて両手にグッと力を入れて苛立ちを含んだ声でそう告げる。その姿に名前は溜息を吐き出して、侑の頭を弱く叩く。



「…はぁ?」

『バレー部なんでしょ?』

「……そう、やけど」

『バレーはチームスポーツだよ』

「だからなんやねん」

『まぁ、私も現役の時はムカつくこともあったし、何でって思う事も沢山あった。この歳になってやっと色んな角度で物事が見れる様になってきた』

「…何の話や」

『私がセッターをやってた理由は特に無くて、顧問に言われたからやってた。今考えればあの中で私が1番視野が広くて…、というか少し冷めててさ。でもセッターやってみたら難しいしずっとボールを触ってないといけない』

「…だから、面白いんやろ」

『ふっ…、そう思えるのがもう既に才能だね』



侑は笑われた事に腹を立てたのか唇を突き出し、眉を寄せて名前を睨んだ。




『なんで君はセッターがいいの?』

「…かっこエエから。それに、サムにも負けた無い」

『…さむ?』

「俺の、双子」

『へぇ。兄弟居るんだ』

「…おん」

『セッターが、かっこいい…、ねェ』

「…文句あるんか」

『…今考えると、私もセッターがかっこいいと思ってたのかな』

「は?」



数年前を思い出す様に空を見上げ小さな声で呟く。その小さすぎる声に侑は少し身体を傾けて耳を澄ます。


『熱量はそんなに無かったのに他の人がセッターをやっていると悔しかったし、負けたら当然悔しかった。ブロックを見て、守備の穴を見つけてそこを突く…。…………そっか、』

「何ひとりで納得しとん」



名前は空に向かって両手を広げて息を大きく吸い込み、はぁあ〜と体を丸め地面に向かって息を吐き出し、顔を上げ前を見つめて言葉を紡ぐ。



『…セッターってかっこいいね』




侑は目を見開き固まる。



「………なにを、当たり前の事、言っとんねん」

『その当たり前に気付けてる君はきっと、上手くなるだろうね』




まるで慈愛に満ちたような目で侑に顔を向けて話す名前に、侑は頬を染め視線を逸らす。



「…………なぁ、頼みがあるんやけど」



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