じゅうご
試合が始まり、侑がサーブの為にボールを持ち、片手を上げて開いていた手のひらをグッと閉じるとピタリと吹奏楽の音楽が止まる。
『……』
その姿を見て、名前は侑達と出会った日のことを思い出していた
*****
今から数年前、名前は仕事の為に兵庫県に住んでいた。名前が勤めていた会社は所謂ブラック企業というやつで、疲れ切っていた名前は公園のベンチに座り込みサボりを決め込んでいた。
『……』
連勤に加え、残業をした体が疲れきっていてボーッと空を眺める。するとボールが壁に当たる音がして顔を前に向ける。
『…バレー』
男の子はバレーボールを壁に当ててオーバーの練習をしているようだった。リズム良く奏でられる音に名前は酷く、
苛立った
『………………』
無意識に舌打ちが漏れて、男の子を睨む。仕事で疲れきっているとどうして、こうもどうでもいい事にも敏感になってしまうのか。貧乏ゆすりも始まり低いヒールがコツコツと音を立てる。すると不意に男の子が振り返り視線が交わる。思っていたより顔は整っている様で、誰が見てもイケメンと言うような顔だ。
「…何見とんねん」
『……』
名前はすぐさま前言撤回をした。そして塗り替えた。
クソガキと
「さっきから俺の事見てたな?なんやねん」
『たまたま目に入っただけ』
「舌打ちとそれうるさいねんけど」
男の子ーー宮侑が指を指したのはヒールだった。
『そんなに近くないから音、そんなに大きくないはずだけど?』
「気が散んねん」
『それぐらいの集中力なんだね〜』
「…なんやと?」
ブラック企業で疲れきった大人はこんなにも大人気ない。中学生の言葉を真に受けて額に青筋を浮かべながら言い返す姿はとても幼稚だった。
「…ババアここで何しとん」
『……お姉さんなんだけど?』
「あれか、ニートか」
『……仕事中』
「……サボりやん」
『休憩です〜』
「ふ〜ん」
興味無さそうに言うと、またリズム良くアンダーでボールを上げては打ってを繰り返していた。
『バレー部?』
「はぁ?これでバレー部やなかったら何部やねん」
『…いちいち鼻につく返しをするなぁ?このクソガキ』
「ババアは?運動神経無さそうやな」
『……私は文芸部』
「嘘や」
『……なんで』
「勘」
『……』
「というか文芸部はもっと大人しい子が入る部やろ?」
首を傾げて言う侑の苛立ちから目元がピクピクと痙攣する。
「ババアもしかしてバレー経験者か」
『…そうだけど』
「うわっ!ほんまかいな!」
『嘘じゃないよ』
「ポジションは?」
『……………セッター』
これが中学生の宮侑と苗字名前の出会いだった。
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