じゅうよん
「いつまでボーッとしてるんですか」
『…月島くん』
「……」
『…オレンジ、似合うね』
「………ドウモ」
『…大丈夫だよ、ありがとう』
「別に心配なんてしてないんですケド?自意識過剰ですか〜?」
『別に心配してくれてありがとうなんて言ってないよ』
「…………」
顔を顰める月島の背中をポンと優しく叩き、小さく『ありがとう』と言うと、月島は1度だけ鼻で笑った。そしてスっと気合を入れた様に顔を引きしめた。
*****
公式ウォームアップが始まり、稲荷崎のスパイクをただじっと眺める。
「幽体離脱時間差!」
侑のスパイクが終わり、ボール拾いの為に名前がコートに入る。田中の打ったボールが飛んでしまい拾う為にしゃがみ込むと不意に影が差して顔を上げた。
「お久しぶりです、苗字さん」
『信介…、……ユニフォーム、凄く似合ってる』
名前が笑ってそう言うと、北はふわりと顔を緩め、優しく微笑んでお礼を述べた。
「お仕事は決まりました?」
『今ここにいる時点で分かるでしょ?』
「体を休めることも大切ですからね」
『信介にそう言って貰えると心置き無くニート楽しめるよ』
「だからと言って、遊んでて良いって訳じゃ無いですけどね」
『心が痛い…、でもちゃんとお金は貯めてあるし』
「無理はしないでください」
『ありがとう』
北はふわりと笑うと、北の後ろから治が顔を出した。
「俺には何も無いんですか?」
『何か言って欲しいの?』
「頑張れって言ってください」
『…私烏野なんだけど?』
「言ってくれないんすか?」
『…言わないよ。頑張られても困るし』
「……ちぇっ、」
治は少し視線を逸らすと、小さく呟いた
「ツムとは話しました?」
『……少しね、』
「あいつの言う事は気にしなくて良いですよ。ガキが癇癪起こしてる様なもんなんで」
『……でも、私が悪いから』
少し視線を逸らして、小さく零す名前に治は手を伸ばして頭をふわりと撫でる。
『……治?』
「俺はまたこうやって会えて嬉しいっすよ」
『…私も、嬉しいよ、』
名前が笑うと、治も安心した様に笑った。するとバシリと弾かれたような音がして顔を上げる。
「…何しとん」
「別に話してただけやろ」
「……話すのに触る必要あんのか」
「何キレとん」
「キレてへんわ!!」
侑が治の手を弾いたのだと気付き、目を見開く。
「名前さ〜ん!ボール行きました〜!!」
『あっ、うん!わかった!』
ネット越しに日向に呼ばれ慌てて返事をして、北、治、侑に声をかける。
『それじゃあ、行くね』
「おん」
突然手首を引かれ、グッと体が揺れる。振り返ると侑が名前の手首を掴み、顔が下がっていて前髪のせいで表情が見えなかった。
『……』
「…ツム?」
「……俺が、」
「侑、時間や」
侑が口を開くと、北の凛とした声が通り、1度グッと掴まれている手首に力が加わり、パッと離される。それでも動こうとしない侑に名前がゆっくりと声をかける。
『負ける気は無いけど…、でも、』
『応援してる。頑張って』
侑はその言葉にピクリと体を揺らすとゆっくりと顔を上げた。
「……裏切りもんが何言うてんねん。もしかして俺らに勝つつもりなんか?勝つのは
稲荷崎や。」
嫌悪や憎悪とは全く違う強い瞳に、心臓がドクンと強く音を立てる。
「何としても。絶対に」
目元を緩めてそう言う侑に、名前は1度瞳を閉じゆっくりと瞳を上げて侑を見上げる。
『…負けないよ。私達も』
「減らず口、強情、頑固」
『お互い様』
お互いに背を向け、オレンジと黒に交わって行った
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