じゅういち


伊達工との練習試合が終わり、名前が帰る準備をしていると影山に声をかけられる。



「苗字さん」

『ん?なに?』

「おりこうさん、ってどういう事ですか?」

『……は?』


突然の質問に名前は眉を寄せ影山を見上げる。



「ユース合宿で、他の選手に言われました。プレーがおりこうさんだって」

『…おりこうさん、』



名前は考える様に指を顎に当てて頭を捻る。



『プレーが、おりこうさん…、』

「はい」

『…これはあくまで私の考えだけど、多分その人が言いたいのは自分のプレーが無くてスパイカーに合わせすぎって、事じゃないかな?』

「…合わせ、すぎ?」

『私はまだ烏野の子達を見始めて全然経ってない。だからこれは繋心くんから聞いたからなんだけど、影山くんはスパイカーの癖にすら合わせられる精密さを持ってる。合わせられるからこそ、スパイカーの成長が無いんじゃないかな』

「成長が、無い…?」

『無い、は言い過ぎたけど。時には合わせるだけじゃなくて、スパイカーに無理をさせる事も必要だと思うよ。今日みたいに』

「…?」

『月島くんへのトス、ちょっと高くしたでしょ?』

「はい。他のセッターの時はもう少し高く打ってたって日向が言ってたんで」

『スパイカーにただ気持ちいいスパイクを打たせているのを見て、スパイカーに合わせるおりこうさん、って事を言ったんじゃないかな?私の考えだけどね』

「……あざっす」



影山は少し考えるとそう言った。



『それで?ユースはどうだった?』

「…床が」

『それは聞いた。どんな選手がいた?』

「星海さん…、身長が170cm前後で、」

『星海くん!?』

「え…?…はい」

『星海くんに会ったの!?』



興奮した様な名前の様子に影山は驚き、足を1歩後ずさる。けれど名前は気づいていないのか無意識に1歩前に詰め寄る。



『星海くんのサイン貰った!?星海くんと握手した!?星海くんと話した!?星海くんと一緒にご飯食べた!?星海くんどんなプレーした!?星海くん上手かった!?星海くんにトス上げた!?星海くんと友達なった!?』

「え、えっと…、す、スープ、お代わり、してました」



影山が混乱の末にそう答えると名前は頬を染め、息を吐き出し恍惚とした表情を浮かべた。



『いいなぁ…、私も星海くんに会いたいなぁ…私もユース呼ばれないかなぁ』

「よ、呼ばれたら、いいっすね」



近くにいた山口は心の中で、いや呼ばれるわけない、と言っていたが誰にも気付かれることは無かった。



「苗字さんはどこで星海さんの事知ったんですか?」

『たまたま長野に出張行った時に暇つぶしでブラブラしてたら、たまたまやってたバレー大会で見たの!その時のプレーが!!凄くて!!』

「そうなんすか」



名前の言葉に山口は仕事なのに暇つぶし?と疑問を浮かべたが、名前には届かなかった。




「全国行ったら会えるんじゃねぇか?」

『…え?』



突然後ろから聞こえた烏養の言葉に名前は首を傾げた。



「ユースに呼ばれるような選手がいる学校だ。全国だって出てんだろ。なら、全国に行けば会える可能性もある」

『行きます!!全国!!ついて行かせてください!!』



右手をビシリと真っ直ぐに上げて声を上げる名前に烏養はニヤリと笑い、名前に差し出した。


『…なにこれ』

「ジャージだ。烏野の」

『………用意がいい事で』

「一応トレーナーとして申請は出しておく」

『私医療知識無いんだけど?』

「少しはあるだろ。怪我の対処法とか選手だったんだから分かんだろ。それに…、」

『それに?』

「トレーナーが居た方が強豪っぽいだろ!」

『……阿呆が居る』



呆れた様に吐き出すと、名前はジャージを広げて羽織る。



『私って黒似合うんだよね〜』

「自分で言うか?それ…」

『どう?繋心くんから見て似合ってる?』

「似合ってる似合ってる」



伊達工とのスコアを見始めた繋心に苛立ち、名前は舌打ちを隠すこと無く出すと、後ろから日向の声が響いた。



「あ〜!!名前さん!ジャージ着てる!!」

『ジャージはいつでも着てるけどね?人を露出狂みたいに言わないで?』

「良かったですね。烏野のジャージが白じゃなくて」

『それは遠回しに白が似合わないって言ってるのかな?月島くん?』

「あはは〜」

『棒読みの笑いやめて!』





全国大会がすぐそこまで来ていた



戻る



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -