じゅう
『あれ、影山くんも戻ってきたんだ』
「あぁ、これでやっと全員揃ったな」
『日向は5日間ボール拾いだったんだって』
「まぁ、鷲匠先生は頑固っつーか、強情っつーか…」
『それで今日は練習試合の相手は?』
「聞いて驚け!…………伊達工だ!」
伊達工業…、名前はあまりの聞き馴染みの無い名前だったが、少し前に烏養に今までの公式試合のビデオを見せられた為、大体のプレースタイルは分かっている。
『ブロック強いとこか』
「おう」
名前は他人事の様に呟くと、烏養に頭をバシりと叩かれる。
「お前今暇なんだから毎日練習来いよ」
『忙しいんだよ。ニートはやる事が沢山あるの』
「何があるんだよ」
『彼氏に会いに行く』
「二次元のな」
烏養は呆れた様に名前を見下ろし、溜息を吐くと体育館の扉が開かれ、伊達工が入ってきて、大きな声で挨拶をされた。
****
「西谷さん!邪魔っす!!」
「……あ゛?」
影山の一言にその場の空気が凍りつく。
「バックアタックの助走の邪魔してます」
その一言を聞いて、名前はさっきのプレーを振り返ると、思い当たる所があった。けれど、名前はスっと瞳を細める。
伊達工にセットを取られ、インターバルに入り部員達が烏養の周りに集まる為に足を進めていると影山が必死な顔で声を上げる。
「俺は…、俺は良いトス上げてます!もっと決めてください!」
言って直ぐに、ハッとした様に表情を崩す。その姿を見て、名前は初めて影山の王様の意味を知った。
「…っ、すみませ、」
「前から思ってたけど、王様ってなんでダメなの?横暴だからだっけ?自己中だから?…でもどっちみち…、影山が何言っても納得しなかったら俺は言うこと聞かない!」
凍り付いていた空気を日向の言葉で一気に空気が変わる。名前は驚いて目を瞬きさせる。名前が聞いた話では日向は中学時代、影山に敗北をして、馬が合わないのかよく喧嘩していると聞いていた。その日向が影山を擁護とも取れる言葉を発した事に素直に驚いた。勿論、日向にそんなつもりは無いのだが。
『だからって先輩に邪魔はダメでしょ』
「……すんません」
コートに戻る直前に影山に名前が声をかけると、影山は素直に謝罪し、少し頭を下げた。その姿に1度だけ手のひらを影山の頭に滑らせ、すぐに下ろした。
*****
「セッターは支配者っぽくて一番カッコイイだろうが!」
『っ…、』
日向の声にピクリと体が揺れて勝手に視線が日向に吸い寄せられて、離せなくなる。
「新!コート上の王様!」
「誕生だあぁっ!!」
タオルを影山の頭に乗せた日向達の後ろにゴミ捨て場のような風景が一瞬見え、ただのタオルが王冠に見えて、瞬きを繰り返す。
「吹っ切れたな」
「俺は他人の気持ちとかよく分かんねぇし、言葉選びも間違うみたいです。……でも、最高のセッターになるよう、努力します」
その姿にかさなる影を見た
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