きゅう


『…?ごめん。もっかい言ってもらっていい?』

「あのですね、日向が、白鳥沢で行われる強化合宿に乗り込んだって…、」

『……あの子、呼ばれてないよね?』




山口は苦笑を浮かべながら両手でボールをコロコロと転がす。名前は眉を寄せ首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる。



『……まぁ、ユース合宿に乗り込むよりはまし…、なのか…?』

「それは……、確かに?」




名前の言葉に山口は疑問符を浮かべながら頷くと、澤村の号令に練習が始められる。



「名前」

『なに?』

「今から白鳥沢に行く」

『へぇ』

「お前も行くんだよ」

『なんで』



名前が嫌そうに答えても烏養は気にした様子も無く歩き出した。諦めて息を吐き出し彼を追いかける。




****



『というわけで、日向くん、月島くん帰るよ〜』



烏養とは別に、自分の車で白鳥沢に来た名前は練習を終え体育館から出てきた2人に声をかける。名前が来ている事を知らなかった2人は驚いた様に目を丸め2度瞬きをしていた。



「…あれ誰だ?」

「知らない…、」



後ろの方で他の国見、金田一が話しているのに気付き名前は愛想笑いを浮かべ、頭を少し下げると2人もつられたように頭を下げた。



『送って行くから早く乗って』

「…」

『嫌なら無理には言わないけど』

「ありがとう、ございます」



月島は歩いて帰るのが面倒臭いのかそそくさと車に乗り込む。日向は唇を噛んで、バッと頭を下げた。




「めっ、迷惑かけてっ、すみませんでした!!」

『………』



その姿に周りにいた他の生徒が驚いた様にヒソヒソと話し始めた。名前はゆっくりと日向に近づき名前を呼ぶ。




『…日向くん』



優しく名前を呼ばれ日向はゆっくりと頭を上げた。




「名前さん………………痛ぁあああっ!?」



名前は日向の頭を勢いよくバシンと叩くと、日向は瞳に涙を浮かべ両手で頭を抑えた。



『…分かってるなら、いい』

「……え?」

『迷惑かけたって、分かってるなら良いよ』

「っ………」

『あとはこの機会を無駄にしないこと。分かった?』

「…はいっ!」

『分かったらさっさと車に乗る!』

「あざっす!!」



日向が助手席に乗り、シートベルトをしたのを確認して車を走らせる。




「名前さんは烏野の卒業生なんですか?」

『うん、そうだよ』

「へぇ〜!じゃあ先輩だ!」

『そうだよ〜、先輩だよ〜、もっと気を使って〜』

「全国も来てくれるんですか!?」

『無視すんな』



噛み合わない会話を適当に流して返事をしていると、後ろに座っている月島が珍しく口を開く。



「…全国、来るんですか?」

『なに?来て欲しくないの?』

「いえ。そういうわけでは無いですケド…」

「でも全国って平日ですよね?仕事とか…」

『あぁ、それは平気。私ニートだから』

「なら平気ですね!!」




日向は笑って前を向くと、10秒ほど置いてからバッと名前の方へと向き変える。後ろでも月島が驚いた様に目を見開いていた。




「ニ、ニート…!?」

『そう。数週間前に仕事辞めて宮城こっちに戻ってきたの』

「そうなんですか…」

『今はニート満喫期間なんだよ』

「…なんで、仕事辞めたか聞いても、良いですか?」

『月島くんってさ、意外と気を使うよね』

「……」

『性格悪いフリして意外と優しくて良い子だね』

「…馬鹿にしてます?」

『捻くれてるなぁ…、本心だよ。あと仕事を辞めたのはブラックだったから。ただそれだけ』

「じゃあ心置き無く全国来れますね!!」

『心置き無く…?使い方合ってるのかな…、それ』



名前は疑問符を浮かべながらも少し笑ってまたゆっくりとアクセルを踏み込んだ。






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