はち
「お願いしゃっす!!」
『…1回だけだから』
ネット越しにボールを持っている山口は名前の合図に合わせボールを向かいのコートへと放り、日向がレシーブをして名前の真上にボールが上がる。ライトとボールが重なって酷く、目眩がした。
『…、』
両手を上げてボールに合わせる。手のひらにボールが触れて日向に合わせてまたボールを上にあげる。その感触に無意識に眉が寄る。
『……はい、おしまい』
日向は打ち終わったあとにバッと顔を上げた。口を開こうとした瞬間、空間を裂く様な一言が響いた。
「苗字さんのセットアップって、普通っすね」
『………影山くん、』
天才に平凡だと告げられる。
分かっている。自分は平凡だと。突飛した才能など無い。
『…分かってる』
自分が1番、分かっている。
『…私には才能もセンスも無いから』
「……才能、……センス、」
名前の声に日向が小さく反応して言葉を繰り返す。名前はニコリと笑って、コートを出ようと1歩を踏み出した時、力強い声が響いた。
「才能もセンスも無いと、バレーしちゃいけねぇの?」
『……………は、』
日向の声に、言葉に驚いて名前が振り返ると、首を傾げて鋭く、射抜くような強い瞳に、そして図星を突かれた様な感覚に1歩後ろに下がる。
「確かに、バレーが上手いか下手か…、そんなの上手い方がかっこいいに決まってる!でも俺はまだまだ下手くそで…、だから!いっぱい…、いっぱい練習して上手くなって!!いつか!強い奴を…、影山を倒す!!」
『……』
どうしてチームメイトを倒すと言っているのか、どうしてそんなにも才能とセンスに恵まれているのに、どうして、
どうして、そんなに、貪欲なの、
「俺はもっと、…もっと上手くなりたいっ…!」
どうしてそんなに、焦っているの
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