茨の道ほどやわらかい
「もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!俺のトスに合わせろ!!勝ちたいなら!!」
飛雄の中学校最後の大会を観に行った。聞こえたのは楽しそうな声でも悔しそうな声でもなく、怒号。
それから飛雄はベンチに下げられ、タオルを頭から被ると肩を震わせていた。
『飛雄』
「…名前ちゃん」
『送るから、乗りな』
中学校で解散になった飛雄に声をかけて車を走らせる。時々石や、整っていない道路のせいで車が揺れる。
飛雄は間違った事は言っていない。ただ、言い方もそうだけど、人はそれぞれ出来ることが限られている。飛雄の上手さは頭1つ抜けてしまっている。それもバレーが好きだから。勝ちたいのも、一与くんの言葉があったからかもしれない。
『…飛雄』
「なに」
『飛雄はまだバレーが好き?』
少し意地悪な質問だと思った。今日の事があったのにこの質問をするなんて。信号が赤になってチラリと飛雄を見ると、首を傾げながらもその瞳があまりにも真っ直ぐで鳥肌が立った。
「は?俺がバレーを嫌いになる事はねぇよ。もっとコートに居てぇ。ずっとバレーをしていたい。強ければバレーができる。コートに立っていられる」
飛雄から目が離せず、動けないでいると飛雄が、青になった、と言うから。慌ててゆっくりと車を走らせた。
『……きっと、飛雄は凄い人になるんだね』
「凄い人?」
『プロバレー選手とか、日本代表とか』
「高いレベルでバレーが出来るなら何だっていい」
あっけらかんと答えた飛雄に驚きを隠せなかったけど、それよりも面白さが勝ってしまった。大声で笑うとギョッとした飛雄が面白くて更に笑った。
『よしっ!仕方ないから名前お姉様が勉強教えてあげる!』
「…………要らねぇ」
『高いレベルでバレーしたいんでしょ?ならここら辺じゃ白鳥沢だよ。あそこは頭も良いからね』
「…………」
鼻頭まで皺を寄せて渋い顔をする飛雄に内心、白鳥沢は無理だろうな、なんて思いながら、勉強しておいて損はないし、とひとり頷く。まぁ、本当に白鳥沢を受けるとは思わなかったけど。
『白鳥沢受けたァ!?』
「受けた。けど問題が意味不明だった」
『…………まさか、ここまで馬鹿だったとは』
「あ!?」
どうして自分の頭で白鳥沢が受かると思ったのか。……いや、スポーツ推薦ならもしかして…。でも私が調べたところ、今の白鳥沢は牛島若利くんっていうスパイカーを重宝しているらしい。飛雄のワンマンプレーじゃ取ってくれないかもしれない。
『……それで、どうするの?』
「烏野にする」
『…烏野?』
「烏養監督が戻って来てるって聞いた」
烏野も今の飛雄では無理だ。またこれは勉強漬けになるな、と思ったら途端に頭が痛くなってきた。
∵∵
「受かってた」
『へー、そっかぁ………………受かってたァ!?』
私の家に訪れるなりそう言ってコクリと頷いた飛雄とは裏腹に、私は目が落ちそうなほど目を見開いて両腕を上げて喜んでしまった。
『やったぁぁぁ!!』
「うぉっ、」
そのまま両腕を伸ばして飛雄に抱きつくと、抱きとめられてしまった。まさか飛雄が烏野に受かるなんて思ってなかった。
『良くやったぁ!今日はお祝いだぁあ!!』
「……………」
何も言わない飛雄が気になって体を離し、顔を覗き込むと何とも言えない顔をしていた。少し眉を寄せて唇を尖らせて両手が変な位置で止まって彷徨っていた。
『おーい?飛雄くーん?』
「…………何だこれ」
『それは私の台詞かな』
うーん、と頭を捻る飛雄を放ったまま手を引いて座らせる。未だに唸っている飛雄を横目に家にあったカレーを温める。
『ポークカレーじゃないけど、カレーだから許してね』
「ッ!カレー!」
『私からのお祝いって事で』
私が作ったんじゃないけど。と心の中で言いながら飛雄の前に座って食事を眺める。私はお腹減ってないし。
すると飛雄は1口食べると首を傾げた。
「…これ、」
『どうしたの?温め足りなかった?』
「名前ちゃんが作ったんじゃねぇだろ」
『え、』
「味が少し違ぇ」
そう言って飛雄はもぐもぐとカレーを咀嚼した。野生の勘だろうか。カレールーを使ってるのは同じだし、そのルーだって同じ物だ。ポークを使ってないのもそうだけど、私だって普通のカレーを作って飛雄に食べさせた事あるし。
『あんまり美味しくない?』
「いや、美味い。けど、」
『けど?』
「名前ちゃんのカレーが1番美味い」
私が作るカレーだって特別な物は入れてないし、むしろ他の人のカレーより雑だ。けれど美味しいと言われて嫌な気分にはならない。カレーを食べる飛雄の頭を撫でると、食べにくい、と怒られてしまった。
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