染まりやすいものに憧れて





『五条さんは私の事が好きなんですか?』

「え?うん。大好きだし愛してるよ?」

『……即答』





五条さんに監禁されて2ヶ月が経った頃、ふと感じた疑問をぶつけると、間髪入れずに返ってきた答えに驚いた。






「むしろなんだと思ってたの?」

『……そういう趣味なのかなって』

「どんな趣味?」





五条さんは少し呆れたように眉を下げていた。けれど私は未だに信じられない。五条さんの様な人が私を好きだなんて。私の心中を察したのか五条さんはジト目で私の顔を覗き込んで口を開いた。





「なに。僕の愛情疑ってたわけ?」

『疑ってたも何も…、私たちお付き合いしてませんし…』

「付き合ってなくても結婚してもらうからね」

『…………』

「してもらうからね」






強めの圧でそう言った五条さんに視線を逸らす。監禁されてそのまま結婚なんて出来るわけない。けれど否定したら怖そうだから何も言わずにとにかく視線を逸らす。





「結婚しなくてもいいけど」

『え!』

「……なんで嬉しそうなわけ?」

『そんな事無いですけど…』

「…結婚しなくてもいいけど、どうせここから出られないし、僕から離れられないよ」





どこか不満そうな顔でそう言った五条さんに小さく舌打ちが漏れた。そしたら頬を掴まれて唇が合わさり、思いっきり舌を吸われた。痛かった。






『……五条さんは私のどこが好きなんですか』

「語ってもいいけど5日はかかるよ?いい?」

『良くないです。冗談やめてださい』

「僕冗談なんて言った?」

『え、』

「え?」





キョトンと首を傾げた五条さんに本気で引いた。素直に気持ち悪いなこの人。そんな私を見て彼は優しく頬を撫でた。





「まぁ強いて言うなら僕に触れられても照れもしない所。僕の顔を見ても態度を変えないところ。むしろ冷たいところ」

『じゃあ私が五条さんにキャッキャすればいいんですね』

「それはそれで最高に嬉しいけど」

『……なら五条さんの事がタイプじゃない女性が現れたらそっちにいくんですね。私、浮気する人嫌いなのでさようなら』

「ちょ、ちょ、違うから!」






半分ふざけて立ち上がると手首が掴まれて腕の中に閉じ込められた。身長が高いだけあって体も大きい。すっぽりと収まってしまった。






「名前だから好きなの。名前じゃないと駄目。他の女が名前と同じ態度とってもなんとも思わない。どうでもいい。僕は名前だから好きなの」

『あーはいはい。なんでもいいですけど離してください』

「冷たい…、でも好き…」






離して、と言ったのに腕の力は強まって抱きしめられているというよりは、しがみつかれているの方が正しい気がしてきた。五条さんは見た目は芸術品のように美しいし、スタイルだってそこら辺のモデルより余っ程いい。けれど彼は時々不安定だ。何をそんなに怖がっているのか分からないけれど、私が逃げてしまう事より、消えてしまう事を恐れているようだった。





『………トイレ、』






以前、夜中にトイレで目を覚ました時に隣で眠っていた五条さんをチラリと見てトイレを目指す。





『……喉乾いた』






ついでに水を飲もうもキッチンでコップに水を注いで飲み込む。ひんやりとした水が喉を通っていく感覚に少しだけ目が覚めてしまった。どうせ昼間に寝られるのだからいいか、とリビングのソファに座って小さな音でテレビをつけた。





『………ん?』






寝室の方からゴソゴソと音がして顔を向けると、小さく五条さんの声が聞こえた。





「……置いていかいないで、」






名前を呼ばれた気がしてテレビを消して振り返る。けれど五条さんの姿は見えない。仕方なく立ち上がって寝室へと向かう。中を覗くを五条さんがベッドの上で膝を抱えていた。





『五条さん?』

「……名前?」

『どうしたんですか?』




ベッドに腰を下ろして五条さんの顔を覗き込むと、五条さんは震える手で私の頬に触れた。その手が冷たくて驚いた。





『五条さん?』

「……名前、」





五条さんはゆっくりと確かめる様に私の体を抱きしめた。その腕が震えているから瞬きを繰り返す。





「……名前、」

『なんですか?』

「名前…」






縋るように名前を呼ぶ五条さんに気付かれないように小さく息を吐く。彼は少しだけ腕の力を強めて祈る様に言葉を紡いだ。





「……いかないで…、」






きっとその言葉は、行かないでじゃない。私の勝手な考えだけど“逝かないで”だと思う。いつも何処か掴みどころの無い五条さんだけど、もしかしたらそうする事で自分を保っているのかもしれない。





『…………寝ましょう』

「…名前は?」

『私も寝ます』

「………ん、」






ベッドに入って強く抱きしめられる。足も絡められたけど、その足も酷く冷たかった。本当は眠くないけど、仕方なく瞼を閉じる。





「………名前、」

『ちゃんと居ますから寝てください』






そう言うと五条さんは少し安心したのか眠った様だった。トイレに行って少しテレビを見ただけでこれだ。少し面倒だなぁ、なんて思った。





「……死なないで、…、」






一筋の涙を流しながら寝言を零した五条さんに、監禁されて結構時間が経ったけど、私はこの人の事を何も知らないという事を知った。



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