漣ジュンがしつこい


「…名前さん?」

『………………げっ、漣くん』



職場で良い感じの人と街を歩いていると数年ぶりに会った変装している後輩にバレた。けれど何かある訳でもなくそのまま適当に挨拶して終わりにしようとニコリと愛想笑いを浮かべる。


『久しぶりだね〜、それじゃあまた今度〜』

「はい、待った」

『…ちっ』

「高校卒業と同時に音信不通になるってふざけてるんすか?オレ、この後予定無いんすよ。付き合ってくれますよね?」

『私どう見ても忙しいよね?大丈夫?目付いてる?』

「それじゃあ行きましょうか」

『いやいやいや、手を離して』



人の話を壊滅的に聞かない漣ジュンは私の手を掴み歩きだそうとしたから私は必死に足に力を入れて抵抗する。すると隣に居た同じ会社の人が声をかけた。


「えっと…、苗字さんの知り合い?」

『いや、あの、』

「恋人っす」

『それは違います!!高校の時の知り合いです!!』

「そ、そうなんだ…、」



さらりと顔色も変えず嘘を吐く私の手を掴んでいる漣ジュンの手を抓る。抓っているにも関わらず、何を勘違いしたのか指まで絡めて手を繋ぎ始めた。



『離してよ!私これからご飯行くんだから!』

「奇遇っすね。オレもまだ飯食って無いんすよ」

『あっそう。じゃあまたね。』



そのまま歩きだそうとしたけれど、勝手に繋がれた手が邪魔で前に進めなかった。いい加減頭にきて漣ジュンを睨み上げる。



『…本当にいい加減にしてくれない?私もキレるんだけど』

「名前さん、勘違いしてるみたいなんで言っときますけど、」

『はぁ?』



漣ジュンは私の顔を覗き込むように腰を折ると、顔を近づけてぐっと私の手を引いて低い声で言った。



「キレてんのはオレの方なんすけど?」

『ひぃっ…!』



瞳からハイライトは消えて額に青筋を浮かべながら器用に微笑みを浮かべている漣ジュンを見て勝手に小さく悲鳴が出た。



「そんな訳なんで、この人返してもらいます」

「…え?」



返すも何もお前のものじゃない。と言いたかったけどさっきの顔が怖すぎて抵抗する気にはなれなかった。腕を引かれる中、慌てて後ろを振り返って頭を下げて最低限のマナーを交わす。彼はただ呆然としていた。





*****




「で?さっきのおっさんとはどういう関係っすか?」

『……それより近くない?対面式の席なんだから向かいに座れば良くない?なんでわざわざ隣に座るの?変だよ?』

「オレの質問に答えてください」



漣ジュンに連れて来られたのは高そうな個室の居酒屋だった。まぁ、私の分は勝手に連れて来た漣ジュンが払ってくれるだろうから、ここまで来たら出来るだけ高いものを頼んでさよならをしたいのだが、それよりも向かいの席があるのに何故隣に座るの?店員さん来たら、え?ってなるよ?


『…私、向こうに座るから』

「ならオレも移動します」

『ナンデ…』



この子はちょっと馬鹿なのかな?


「まさかとは思いますけど、あのおっさんと寝てないっすよね?」

『……』

「……名前さん」

『…寝てないよ。そもそも初めて出かけたんだし。邪魔されたけどね。どっかの誰かさんに』

「あとなんで音信不通になったんすか?オレ何回も連絡したんすけど」

『携帯変えたから。以上』

「なら新しい連絡先教えてください」

『やだ』

「なんでっすか」

『アイドルが簡単に連絡先教えない方が良いんじゃない?』

「名前さんだからっすよ」

『わー、全然ときめかない』



ドヤ顔している漣ジュンを横目に届けられたおつまみを箸で掴み口に運ぶ。高い所なだけあってすごく美味しい。



『言っとくけど、私イケメンはタイプじゃないから』

「どんな人がタイプなんすか」

『ムロ○ヨシ』

「…………」




私がそう言うと、はぁ?みたいな顔をされた。ムカつく。



『可愛いし、面白いし、優しいし、お金持ってそうだし、かっこいいし、浮気しなさそうだし、年上だし、お金持ってそうだし』

「オレだってそこそこ金は持ってますけど?」

『イケメンはお断り』



ピシャリと言い切ると、漣ジュンは私の手を握り耳元に顔を寄せた。


「オレ、セックスも上手いと思いますよ」

『そういう奴は大抵ヘタクソ』

「……」




甘く囁かれたけれどそんなのは私には聞かない。そもそも上手い下手では無いのだ。私にとってはどれだけ優しくしてくれるか、私を大事にしてくれるか、愛してくれるか、が問題なのだ。元々、そんなにセックスは好きじゃない。気持ちいいと思えた事も無いし、あんなの子作り以外ならただの男の自己満足だと思ってる。




『あと近い。うざい。離れて』

「本当につれないっすね〜」

『だから諦めれば?』

「オレ一途なんで」




その一言に、私は漣ジュンの方へと顔を向けた。何を勘違いしたのか嬉しそうに笑い、頬を染めて私の手を取り指を絡めた。



『違うでしょ。漣くんは自分に興味が無い女が珍しくて構ってるだけ。今まで大抵の女の子はそのイケメンフェイスで落とせたんだろうね。けどこの世にはおじ好きとかブス専とかデブ専とかも居るんだよ。それが分かったらさっさとここのお金だけ置いて帰ってください』




我ながら酷い事を言っていることは分かっていたけれど、高校の時から毎日の様に絡まれていたストレスを社会人になって解放されたと思っていたのに、またそれを繰り返すのはゴメンだ。




「……はぁ、分かりました。」

『よかった』




納得してくれた様で安堵していると、漣ジュンは目の前のジョッキをグイッと煽った。



「でも、今日の飯はオレが払うんで付き合ってください」

『………まぁ、それは仕方ないか』




高いご飯をタダで食べれるんだから今日だけは付き合ってやろう。会うのも最後になるわけだし。心身共に大人の考えが出来るようになった私は、遠慮なんてせずどんどん高いご飯やお酒を煽り散らかした。





******





『……ん゛〜…、』



朝日が眩しくて薄目を開けると、ズキリと頭が痛んだ。そのままボヤける視界を広げると少し焼けた肌色が目に飛び込んできた。




『…………………………………は?』





頭を痛みを忘れ飛び起きると、漣ジュンが眠っていた。





『……え、……なに、これ、』



下を確認すると、案の定自分は裸で何も身につけては居なかった。ズキズキと腰も痛み、強いて言うならゴミ箱には入っていて欲しくなかった物が入っていた。




『…………いやいやいや、違うって、何かの間違いでしょ。私が漣ジュンと寝るわけが…、』




現実逃避をしていると、隣で眠っていた漣ジュンがモゾモゾと動いて、ゆっくりと瞼を上げた。無駄な色気に凄く腹が立った。




「……ぁ、…おはよう、ごさいます、よく眠れました?」

『…………こんなに最悪な朝は初めてだよ』

「オレは最高すぎる朝っすけどね」




そう言うと漣ジュンは私の腕を引き私を押し倒すと、私の手を絡め取りシーツに押さえ付けた。



『ちょ、ちょちょちょ!何やってるの!?馬鹿なの!?』

「昨日は本当に幸せでしたね〜。今も幸せっすけど。昨日の名前さんまじ可愛かったな〜、気持ち良さそうに涙流して」

『…………それ、聞かないとダメ?』

「なんならビデオもありますよ?見ながらシます?」



なんだその変態プレイは。というか何撮ってんだ。訴えるぞ。まじで。




『………漣くん』

「あれ?昨日みたいにジュンくんって呼ばないんすか?」

『呼んだ覚えもございません。』

「なら、もっかいヤれば思い出すんじゃないっすか?」




そう言った漣ジュンは私の首筋に顔を埋めて舌を這わせた。




『ちょっ、とっ!!』



慌てて繋がれている手を解こうと藻掻くと、あっさりと顔を上げた。




「オレ、じわじわと追い詰めて落とすタイプなんすよ」

『……落とすって、地獄に?』

「まさか。そんな訳無いじゃないっすか。それに昨日名前さんが言ってましたよ〜?こんなに気持ち良いセックスは初めて〜って。オレら相性良いんっすね〜」







言った覚えも無いし、そもそもセックスをした覚えが無い。あるのは二日酔いだと思われる頭痛と、何故だか覚えがない、覚えていたくない腰の痛みだけだ。



「自分で言うのもなんすけど、オレしつこいっすよ」



そう言った彼の瞳はギラギラと、まるで肉食獣の様な瞳をしていた。





あれ?もしかしてやばい?







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