結局私の負け






「名前さ〜ん」



私の彼氏は今をときめくアイドル 漣ジュンだ


「名前さ〜ん」


なんでこんなワイルドな彼氏が今、私の背中にベッタリと張り付いて私の首筋に顔を埋めて情けない声を出しているのか謎で仕方ない




『…ジュンくん』

「やっと返事してくれたっスね」

『見て分かるだろうけど、私、今、仕事、してるの』

「聞いてくださいよ〜、俺明日ドラマの撮影なんスよ」

『……へぇ〜。話聞いてあげたから次は私の話聞いてね。私今お仕事してるの』

「ドラマ撮影なのは良いんスけどね〜。ただ明日のシーンがちょぉ〜と嫌なんスよね〜」

『私も今パソコンやってるからちょぉ〜と離れて欲しいんスよね〜』

「なにそれ。俺の真似っスか?可愛い事しますね〜」

『ちょちょちょ、やめて。ちゅーしようとしないで』

「名前さ〜ん、俺の事慰めてくださいよ」

『ん〜?私は今仕事してるんだが?』




この男は何を言ってるのかな?




『ジュンくん本当に離れて。本当に仕事が終わらない』

「…」

『黙ってもダメだよ〜』

「…明日の仕事休みたい」

『……はぁ、』




私は大きな溜め息を隠すこと無く吐き出し、とりあえず区切りのいい所まで終わらせてパソコンをパタンと閉じる

その音を聞いた私のお腹に回っているジュンくんの腕がピクリと揺れた


『なんでそんなに嫌なの?ドラマ撮影の前日はいつも楽しそうに台本読んでたでしょ?』

「…明日のシーンが嫌なんですよ」

『シーン?』



私がお腹に回っている手(お腹には手を回さないで欲しい)をポンポンと叩きながら聞き返すとジュンくんは顔を上げて、後ろから私の顔を覗き込んで来た


「……明日、キスシーンあるんです」

『へぇ〜。……えっ!?』

「名前さんも嫌ですよね?」

『…うそ、でしょ、』

「名前さんが嫌がってくれるなら、明日は寸止めで終わらせましょうかね〜」


ジュンくんは(何故か)嬉しそうに声を少し弾ませながら私の手を絡め取った




『ジュン、くん…、』

「ん?どうしたんすか?」



ジュンくんは私のこめかみや頬にキスを落とす




『キスって、』

「そんなにショック受けてくれるなんて…、ちょっと嬉しいっスね〜」

『キスってもしかして!!』

「うわぁっ!?」



私はガバッと後ろを振り返り、ジュンくんに詰寄る




『もしかしてキスする相手って川原さとみちゃん!?』

「まぁ……、そうですけど、」

『え〜!?私は幼なじみ役の堀北真帆ちゃんとくっつくと思ってたのに!!』

「……はぁ?」



思いもしないネタバレに私は怒りを感じた




『もう!なんで言っちゃうの!?毎週放送楽しみにしてたのに!!』

「いや………え?」



ジュンくんの肩を1度バシりと叩いてパソコンに向き変える




『もうっ!』

「…名前さん」

『…やめて!首折れちゃう!』



機嫌を損ねたジュンくんは私の頬に手を当てると無理矢理キスしようと顔を捻させる



『怖い怖い!!目が怖い!!』

「…名前さん」

『むぅ〜!!!』



頬をギュッと潰され、頬の肉が寄って今はいつも以上に不細工な顔になってるだろうにジュンくんはそれでも顔を寄せてくる




『う゛〜!!!』



私も負けじとジュンくんのキラキラのアイドルフェイスを片手で覆って押し返す




「キスさせろ」

『遂に命令口調!?』




無理矢理距離を取って、自分の体を守る様に自分の体を抱きしめる


『ジュンくんは私に乱暴するつもりね!?エロ同人誌みたいに!エロ同人誌みたいに!』

「本当にヤってもいいんスよ?」

『すいませんっした!!!』



ジュンくんの瞳からハイライトが消えてた。怖すぎて土下座しちゃったよ




「…名前さん」



ジュンくんに名前を呼ばれて、そろりと顔をあげる



「キスしてください」

『…いや、あの、』

「キスしてください」

『キスって、してくださいってするものじゃ無いんじゃないのかな〜、なんて…』

「名前さん」

『ジュンくん?目が怖いよ〜?』




冷や汗をかきながら、愛想笑いをしているとジュンくんにギュッと抱きしめられる



「…不安になるんスよ」

『ジュンくん?』

「名前さんが本当に俺の事好きなのか、不安になるんスよ」

『……』




ジュンくんは縋るように私を抱きしめていて、気の所為かもしれないけど、その腕が震えている気がした



『…私はジュンくんの事が好きだよ』

「……」

『でも、』



私が、でも、と言うとジュンくんの腕の力は増して少し苦しいくらいだった



『でも、ジュンくんはアイドルだよ』

「…だから、なんだって言うんですか」

『これからもっと美人な人と出会う』

「顔じゃないでしょう」

『顔だけじゃなくて、顔も性格も良い人とも出会える』

「…でも名前さんじゃないでしょ」

『私なんかよりもっと良い人が居るって事』

「…名前さん、」

『勘違いしないでね、別に別れ話じゃないよ』

「…、」

『ジュンくんが良い人を見つけるまで隣に居させてよ』

「じゃあ、」



ジュンくんは腕を緩めて、額同士をコツリとぶつけた




「別れられないっスね。名前さん以上の人は居ないんで」

『…10代のくせに』



ジュンくんは、ふっと笑うと唇を合わせた



『…ちゅーしていいなんて言ってない』

「名前さんとのキスの感触を忘れたくないんスよ」

『なにそれ』

「明日、頑張ってくるんで」

『キスシーンの話?』

「あ゛ー…、名前さん以外とキスしたくないんスけど」

『川原さとみちゃんとキス出来るなんて羨ましい』

「なんだよそれ」

『むしろ私が川原さとみちゃんとキスしたい』

「……」

『ん゛〜!!』



ジュンくんは私の唇に噛み付くと、ぢゅ〜と音が出るほど私の唇を吸う



『〜っ!痛い!!』

「……」

『また吸う気だな!?やだやだ!』


ジュンくんは私を抱き寄せまた唇を吸いながら、体重をかけてする



『ちょ、ちょちょ、』





私の腹筋は直ぐに限界が来て後ろにパタンと倒れてしまう




「好きです、名前さん」

『ジュ、ジュンくん、』




ジュンくんはその顔からは想像出来ないほどの甘い声を出して額やこめかみ、頬にキスが落とされる



「本当に好きです、名前さん、」

『……私もジュンくんが好きだよ』

「……ははっ」




ジュンくんは少し頬を染めて無邪気に笑うと、また私の唇に噛み付いた










『……だからって、起きれなくなるまで抱いて良いとは、言ってない』

「いや〜!結局撮影は寸止めでしたよ〜。それに今日は調子いいって褒められちゃいました〜」

『………良かったですね』



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