雨昼にほつれる息遣い





「そういや今日じゃねぇか?恵が入学してくるの」

『めぐみ?』




真希の言葉に首を傾げるとパンダと棘も一緒に首を傾げた。女の子かな。






「名前は好きそうな顔だぞ。良かったな」

『好きそうな顔?』





女の子なら全部好きだけどなぁ。と思いながら真希が立ち上がるから後に続く。パンダと棘もよく分かってないみたいだからもしかしたら禪院家関係の子なのかもしれない。






「おっ、居た。恵ー!」

「禪院先輩」

「私を名字で呼ぶんじゃねぇ」

『おっ、男の子…!』






五条先生と一緒に居たのはスラリとした男の子だった。めぐみって言うからてっきり女の子だとばかり…。






「丁度いいや。紹介するね。1年生の伏黒恵くん。仲良くしてやってね」

「よろしくお願いします」

「明太子」

「真希と少し似てるな。よろしく」

『よろしく』





礼儀正しく頭を下げる伏黒くんを見ると何故か真希がニヤリとして私を見た。その意味が分からず首を傾げると棘に腕を啄かれる。




「すじこ、いくら、ツナマヨ?」

『……そうだね。前だったら好きになってたかも』

「おかか?」

『…好きになれた方が、楽だったかも』






棘にだけ聞こえるように小さな声で答えると、髪をぐしゃぐしゃと撫でられた。棘にしては珍しい行動に目を見開く。






「高菜!明太子!」

『ちょっ、ちょっと!髪の毛崩れる!』

「おっ、楽しそうな事してんじゃねぇか」

「俺も混ざろーっと」

「これが恵の先輩達だよ」

「………………」





3人に髪をグチャグチャにされて、瀕死の思いで抜け出すと伏黒くんに呆れた様な視線を感じた。私は何もしていないのに。





∴∴∴






「雨の日って勉強する気しねぇよな」

『真希はいつもでしょ』

「あ?」

『え、怖い…』




お昼頃から降り始めた雨を教室から眺めているとご飯を食べ終わった真希が戻って来た。





「何見てんだよ」

『ん?伏黒くんと乙骨くんの初面会』

「はァ?」






真希も気になったのか窓から外を眺めた。外では傘をさした2人が話している様だった。乙骨くんは海外任務が近いから色々準備があるみたい。授業に出れるのも少ししかない。





「あそこは気が合いそうだな」

『伏黒くんに詳しいんだね』

「恵も血筋が禪院家だからな」

『…え!?』





驚愕の事実に目を見開くと真希は鬱陶しそうに眉を寄せてしまった。説明するのが面倒なんだろうなぁ。





「そんで?もうすぐ憂太は海外だけど。オマエどうすんの?」

『どうするも何も…』

「告んねぇの?」

『…………振られるの分かってて告白するのって、結構勇気いるんだよ?』

「でも吹っ切れるかもしれねぇだろ」






確かにそうかもしれない。それに振られるって分かってる方が予め覚悟は決められる。乙骨くんは優しいからきっと気まずくなったりもしないかも。






『………』

「んなビビんなよ。振られた時は仕方ねぇから飯でも奢ってやるよ」

『…ありがとう』






お礼を言うと真希のスマホが震えた。どうやら任務が入ったらしい。教室に1人になって窓の外を眺める。雨が窓に当たって水滴の跡が所々に見える。







『………好き、』






空気の様に漏れた言葉は雨音にかき消されて、自分の耳にすら届かない程小さな騒音にしかならなかった。


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