どうか触らないで、離さないで、壊さないで


『………どうした、禪院の小童』

「……………」





夜中というには早い夜に高専とやらの屋根で月を見上げていると瓦を踏む音がしたと思ったら小童の呪力を感じた。





『人間は寝るものだろう』

「…………」

『宿儺の器でも死んだか』

「…知ってたのか」

『気配で何となくな。ケヒッ、アイツの切り分けたふたつの魂が死んだか。次に殺り合ったら私の勝ちだな』

「……虎杖が、死んだんだ」

『元々死刑の予定だったのだろう。早まったか遅まるかの違いだ』

「………」

『…今日のオマエはいつも以上に辛気臭いなぁ。…不愉快だ』






何も答えず私の隣に座る小童に青筋が浮かぶ。せっかく宿儺の魂が消えて喜んでいたというのに水を差された気分だ。




『人間というのは面倒だな』

「……オマエだって、元は人間だろ」

『人間か…、…人間というよりは畜生に近かっただろうな』

「………」

『実に平和な時代になったものだな』





月を見上げて手を伸ばす。指の隙間から光が漏れて目を細める。幼子の時もこうして遊んでいたな。それも随分と昔の話だが。





『少年はどのように死んだ』

「……宿儺が自分で虎杖の心臓を抜き取ったんだ」

『少年は苦しんで死んだか』

「……いや、…少し笑ってた」

『少年は誰かを怨んで死んだか』

「……どう、だろうな。…けど、アイツは人を怨む様な人間には、見えなかった」

『そうか。なら御の字だ。少年は幸せだな』

「…………オマエは、呪霊なんだな、」

『何を今更な事を。私は、呪霊だよ』





翳していた手の平を下ろして先程まで月明かりが当たっていた手のひらを見るけれど、何も変わってはいなかった。それが酷く、寂しい。






『私は人間という生き物が嫌いだ。吐き気がする。そして特に餓鬼だ。私は呪霊になった事を後悔はしてないし、これから先する事は無い』

「……どうして人を毛嫌いする」

『…………』





ーー「この村の為に死んでくれ」

「苦しいのは一瞬だ。すぐに楽になる」

「子供を生贄にしなくてはいけないのだ」

「親の居ないオマエならば誰も悲しまない」

「死んだ方がオマエも楽だろう」






生贄など、ただの名ばかりの玩具だ。実際には村の男達の玩具。幼子だった私に絶望を与えるには十分過ぎた。好きに傷つけられ、酷い時には手首を切り落とされた事だってある。私の最後は酷く醜い。首を絞められながら辱められ、死んだ事に気付いた男が焦りながら燃やしたのだ。






ーー人間とは、何とも醜いのだろうか








『…禪院の小童』

「……なんだ」

『炎の熱さを知っているか?』

「…は、」

『腕に焼き付けられる鉄の熱さを知っているか?』

「………オマエ、」

『首を絞められれば苦しく、切りつけられれば肌が痛む。……けれど呪霊はすぐに治るんだ。傷跡も残らない』

「…………」





変な顔をしている禪院の小童を押し倒し体を跨ぎ頬を撫でる。





『少年が死んで悲しいのだろう?慰めてやろうか』

「…………違ぇんだよ、」

『人間はこの行為が好きだろう』

「…やめてくれ」

『呪霊だ。子を孕む心配もない。好き勝手に出来るぞ』

「やめろ…!」





声を張って両手で顔を覆う小童に目を見開く。そして小さく闇に消えてしまいそうな程弱い力で言葉を紡いだ。





「……違うんだよ…、なんで、…分かんねぇんだよ」




ーー『どうして…、すぐに居なくなるくせに、すぐに死ぬくせに、……どうして私を、』






弱々しく消えてしまいそうな姿に自分が重なって見えて唇を噛むと、久方振りの痛みが走った気がした。



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